『ベルイマン島にて』のミア・ハンセン=ラヴ監督の新作『それでも私は生きていく』。主人公の父を演じたパスカル・グレゴリーと、恋人役のメルヴィル・プポーのインタビュー後編。この映画は、監督の自伝的作品であると同時に、フランスの社会問題が反映された物語でもあるという。
――ミア・ハンセン=ラヴ監督とはお二人とも初めて一緒に仕事をされたと思いますが、どんな印象を持たれましたか?
メルヴィル 監督は初対面の時はシャイで、どちらかというと積極的に話すタイプではないように感じたんです。でも撮影現場では、考えをはっきり主張するし、指示も非常に明確で、的確でした。彼女はいつも自伝的な映画を撮っていますが、とはいえドキュメンタリーではなく、物語として成立させている。若いですが、どこかエリック・ロメール監督(ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠。メルヴィルは『夏物語』[1996]に主演)と似たものを感じました。
――具体的にはどのあたりに、ロメールとの共通点を感じましたか?
メルヴィル 実際のロケーションを使って映画を撮っていて、そこには嘘がない。クレマンは宇宙化学者という設定なのですが、働いている場面は実際の研究所で撮影をしました。そしてロメールもそうですが、ミア・ハンセン=ラヴも一つひとつのセリフにとても厳密です。とても言葉にこだわりがあるので、そこに忠実に演技することを求められました。
――パスカルさんも、ロメール監督とは『海辺のポーリーヌ』(1983)はじめ、多くの作品で一緒に仕事をしていますね。
パスカル 確かに、彼女とロメールは似たところがありますね。私が一番好きなミア・ハンセン=ラヴ監督作品は『未来よ こんにちは』なんです。あれは監督の母親の話でした。初めて新しい監督と一緒に仕事をする時は、私にとっては未知の世界に入れるという喜びがあるのですが、彼女とはすぐに友情を築けて、とても良い現場になりました。
メルヴィルがさっき言ったように、ミアの言葉に対する厳密さは強く感じました。私も、セリフを脚本と一言一句変えずに言うようにしていました。ロメールとの違いを挙げるならば、ラブシーンなどにとても感情的で激しいものがある。ロメールは人生の軽さとかポジティブな面を掬い取って描いていましたが、彼女の愛情の描き方などは、重いとも思いますね。もう一つ大きな違いは、ミア・ハンセン=ラヴ監督は常に自分の人生を反映させた映画を作っていますが、エリック・ロメールの場合は物語は完全なるフィクションという点です。
2023.05.05(金)
文=石津文子