僕たちは富士山を見ると……
――やはり社会問題が反映されているんですね。
メルヴィル 確実に影響していると思いますね。先ほどコロナの影響という話が出ましたが、みんな家に籠もるようになって、ものを書く時間が増えた。そこで作り手としては表面的なものではなく、重要な問題や、現実の人生に向き合った作品を書くようになった。このピンチを映画にできるのでは、とチャンスと捉え、個人的なことや、人生の本質的なものを描こう、というふうになってきたんだと思います。
――『ブラザー&シスター』の、女優の姉に反発する作家の弟という役は、とても複雑な気持ちを抱えている男性でしたね。
メルヴィル 『それでも私は生きていく』での僕の役は、完璧すぎる男かもしれません。ちょっとハラハラさせはするけども。それに比べると現実にいそうな、どっちつかずな複雑な男を演じる方が役者としては面白いですね。
――素晴らしい作品とお話を、どうもありがとうございました。写真を撮りたいので、ちょっとカーテンを開けますね。富士山が見えるのがわかりますか?
パスカル おお、素敵ですね。日本人がパリでエッフェル塔を見ると、「フランスに来た!」と実感するように、僕たちは富士山を見ると、「日本に来たな」と実感するんですよ。こんなに近かったんですね。
パスカル・グレゴリー
1954年、パリ生まれ。『愛する者よ、列車に乗れ』(98)、『カオスの中で』(00)、『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』(07)で3度セザール賞候補になった名優。エリック・ロメール作品の常連で、『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(93)では主演。また『王妃マルゴ』(94)などパトリス・シェロー作品にも多く出演している。
メルヴィル・プポー
1973年、パリ生まれ。10歳の頃から映画に出演し、『15才の少女』(88)、『愛人』(92)、『おせっかいな天使』(93)、『いちばん美しい年令』(95)など若くして多くの作品に出演。フランソワ・オゾン監督の分身的存在として『ぼくを葬(おく)る』(05)、『私はロランス』(12)、『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(19)などに主演。また、音楽活動もしている。
『それでも私は生きていく』
2023年5月5日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ「未来よ こんにちは」「ベルイマン島にて」
撮影:ドゥニ・ルノワール 編集:マリオン・モニエ 美術:ミラ・プレリ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン
2022年/フランス/112分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Un Beau Matin/英題:One Fine Morning/R15+/日本語字幕:手束紀子
配給:アンプラグド
https://unpfilm.com/soredemo/
2023.05.05(金)
文=石津文子