この記事の連載

監督の父も、コロナに感染し介護施設で亡くなった

――でも観ていると本当に迫真の演技で、パスカルさんもどこか具合が悪いのでは、と思ったほどです。今日お会いしたらとてもお元気で、安心しました。

パスカル それはどうもありがとうございます(笑)。よく心配されてしまうんですが、全く大丈夫ですよ。

――日本では人にもよるでしょうが、役に没頭してしまって、撮影期間中はカメラが回っていない時もずっと役を引きずっている役者さんもいます。メルヴィルさんはどうですか?

メルヴィル 僕の場合は、役にもよります。役の求める集中度によるというか。例えば少し前に、アルノー・デプレシャン監督の『ブラザー&シスター』(Frère et soeur/2022)という映画に出たのですが、監督から映画の世界にどっぷり浸ってほしいと言われ、またかなり細かい指示があり、すごく役に没頭したので、日常でもちょっと引きずっていました。もし『それでも私は生きていく』がそうだったら、ずっとレア・セドゥを抱きしめていられたのにね(笑)。

――『ブラザー&シスター』もカンヌで拝見しましたが、姉と弟の関係を描きつつ、同時に、親の死に備える話でもありましたね。もう一つ、フランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』(2021)も、安楽死を望む父と葛藤する娘たちの話でした。たまたま私が観たフランス映画の主題が似ていたのか、それとも老いた親の介護や死というのは、フランスではかなり重要な問題となっているのでしょうか?

パスカル 確かに問題になっています。実際、ニュース番組でも老人介護問題はよく取り上げられますし、この映画の中も出てきますが、介護施設での老人虐待も大きな社会問題になっていて、国もそこに介入しようとしています。

 私個人の感覚としては、新型コロナの問題以上に、介護施設や病院での老人虐待の方が大きな問題だと感じますね。また、介護施設で感染して亡くなった方も多かったですし。実際にミア・ハンセン=ラヴのお父さんも、新型コロナに感染して介護施設で亡くなったんです。

2023.05.05(金)
文=石津文子