ジェンセン先生は、思春期に関する新たな論文を読めば読むほど、おとなの脳と10代の脳は異なっているのに、研究者が知る新たな情報が、実際の10代の親に届いていないということに気づきます。序文に書かれているとおり「情報を求めているのは、単なる傍観者ではない。実際にティーンに腹を立て、イライラし、当惑している親や保護者、それに教育者なのだ」。そこで、自ら初めて一般読者向けに書いたのが本書というわけです。
私は、50年にわたって児童精神科医として多くの子どもを診てきました。2014年まで勤務していた慶應大学病院の小児科では、毎年のべ2000人以上を診察し、常勤は退いて渡邊醫院で変則的に診療する今でも、200~300人の子どもを受け持っています。
そこで日本の児童精神科医という立場から、本書をどう読めばいいか考えてみたいと思います。
私たち児童精神科医には、小児科医から「これは専門家でないと難しい」と判断された患者が紹介でつれてこられます。思春期やせ症、ひきこもり、抑うつ、暴力・反抗などの問題行動などふつうの対応では解決できない激しいケースです。
50年間診ていて感じるのは、全体的な傾向として思春期の問題が増加し複雑化していることです。統計ではなかなか現れにくいのですが、厚労省の資料では児童・思春期の精神疾患の外来患者数が15年以上増加傾向にあったり、思春期外来を設ける施設も増えています。
さて、では、専門的な相談が必要なような深刻なケースに、児童精神科医はどう対応しているのでしょうか。
1.子どもへの対応
1)悪循環をほぐす
多くの問題行動は悪循環に陥ったために受診に至る。その悪循環は、父母関係、家族関係だけでなく、学校の集団での関係にも及ぶことが多い。するとたとえば、母親はわが子の問題にうろたえ孤立しつつ、過去の生活における父親の無理解に恨みや怒りが向き、夫婦の離婚の危機などに波及していく。
2023.04.03(月)
文=渡辺 久子(児童精神科医/元慶應義塾大学病院小児科)