そうは言っても、そうした専門医を知らないという方も多いと思います。

 そこでアドバイスしたいのが、家庭医やかかりつけの小児科医を持ちなさい、ということです。

 子どもの心は体と一体。そして現在の健康状態は小さいころからその子を身近に診てきた小児科医が一番適切な判断をするものです。普段から家庭医やかかりつけの小児科医に子どもを診てもらうことです。そして、もしも専門的に対応すべき兆候があれば、家庭医から専門医を紹介してもらうのが一番よいのです。

 地域のお医者さんで、小児科と内科の看板を出している医院。お子さんが女の子なら、女医さんがいるところがよいでしょうね。地域のコミュニティとのつながりをもつことにも通じます。

 本書の優れているところは、煙草や飲酒などの嗜好品がなぜ10代によくないのかということを、はっきりデータを示して提示してあるところです。若い時期の飲酒や喫煙が、後のIQの低下につながるなどの信頼すべきデータを提示し、だからそうしたものからは遠ざけておくことの必要性を語っているのです。

 性感染症の問題も同様で、リスクコントロールがうまくいかない10代の脳は、避妊具を使わない不特定多数のセックスなどに走ってしまうことがあり、しかしその結果は悲惨であることを、きちんと語っていることです。この性感染症の問題は、日本でもたいへん深刻で、この本のように因果関係をはっきり示して子どもとともに考えるということが必要です。

 おそらくこの本を手にとった方は、かつてのジェンセン先生のように、子どもの「問題行動」に途方にくれている方でしょう。しかし、ゆっくり息をすって、ジェンセン先生のように近所や友人の力も借りながら、目を離さず、手は離して、子どもたちに接してあげてください。

 やがて、アンドリューが、量子物理学で修士号を取得し、医学部の博士課程にいるように、あるいは、ウィルがハーバード大学を卒業し、ニューヨークシティでビジネスコンサルタントをしているように、今の苦労が笑い話となる日がくることでしょう。

2023.04.03(月)
文=渡辺 久子(児童精神科医/元慶應義塾大学病院小児科)