2)子どもとの治療同盟

 その子の健康な自我と同盟を結ぶ。児童精神科の治療では子どもと医者の信頼関係が要。できるだけありのままの気持ちを語って欲しいと語りかけ、発言の秘密は守ることを約束し、わかりやすく悪循環の弊害を話す。

 3)診察のルールを決める

 治療の出発点で子どもと話し合いルールを決め、治療の構造を明確にする。

 4)日常生活をみなおす

 過密スケジュールの改善、生体リズムの再確立(睡眠、覚醒、食事のリズム)、インターネットやゲームの時間制限など自分と向き合う態勢づくり。

 5)問題にはそこに至るまでの訳やいきさつがあり理解が大切である

「悪いことをしていないのに誤解されたら怒りたくなる。親から頭ごなしにいわれたらキレる。でも、包丁を振り回しても何も伝わらない。なんとか言葉にしてみよう」と。行動化から言語化へと導く。

2.家族への対応

 親への試し行動:思春期の子どもは寂しく孤独になる瞬間、ふと見捨てられる不安を親にぶつけて試す。親がおどおどして子どもにふりまわされると、子どもの激情はエスカレートする。父母、教師、治療チームが緊密な連携により、子どもの自己破壊的な不安や怒りを鎮め、健全な自我との同盟を組む。そのためには子どもの複雑な「試し行動」の脅しにのらない、攻撃的言動や懐柔にふりまわされない。ネガティビズム(拒絶的言動)の奥の、本当に信頼できる存在に出会いたい願いに答える。

 とくに母親には、あなたの育て方のせいとは誰もいっていないのでくれぐれも罪悪感をもたぬように、と支える。診察には早い段階でできるだけ父親を呼びいれ、思春期の子どもの問題行動によりどの親も傷つくが、これは社会に一つの人格を産みだすための「心の陣痛」と思いましょう、と励ます。親の役割を強化し、父母が一枚岩となってわが子の本音と向き合う。わが子の攻撃的な言動を肌で受けとめその存在の苦しみを肌で受けとめることこそ、社会にわが子を産みだす「心の陣痛」に匹敵する。

2023.04.03(月)
文=渡辺 久子(児童精神科医/元慶應義塾大学病院小児科)