『妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート』(夢枕 獏/蝉谷 めぐ実/谷津 矢車/上田 早夕里/武川 佑)
『妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート』(夢枕 獏/蝉谷 めぐ実/谷津 矢車/上田 早夕里/武川 佑)

 本書『妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート』は、陰陽師を題材にした時代小説のアンソロジーだ。ベースになっているのは、「オール讀物」二〇二二年八月号の特集企画“「陰陽師」の世界”である。これは、夢枕獏の「陰陽師」シリーズの短篇「殺生石」に加え、六人の作家がシリーズのトリビュート作品を寄稿。さらに、「陰陽師」と縁のある野村萬斎や羽生結弦を使った「晴明グラビア」や、夢枕獏と講談師・神田伯山の対談「好きだから挑戦し続ける」を掲載した、豪華な特集であった。多彩な角度から照らし出された「陰陽師」の世界に、シリーズのファンや時代小説ファンは大喜びしたものだ。

 ただし本書は、特集のために書かれた作品を、そのまま一冊にしたわけではない。夢枕獏の作品は「殺生石」ではなく、『陰陽師 龍笛ノ巻』に収録されている「むしめづる姫」と、「オール讀物」二〇二二年九・十月合併号に掲載された「太子」を採っている。上田早夕里は、「オール讀物」掲載の「突き飛ばし法師」ではなく、「井戸と、一つ火」を収録。どちらも「播磨国妖綺譚」シリーズの一篇だ。「井戸と、一つ火」がシリーズ第一話なので、読者の分かりやすさを優先したセレクトなのだろう。

 蝉谷めぐ実の「耳穴の虫」、谷津矢車の「博雅、鳥辺野で葉二を奏でること」、武川佑の「遠輪廻」は、特集から本書へそのままスライド。やはり特集に掲載された、青柳碧人の「アイリよ銃をとれ」と、三津田信三の「ただのろうもの」は、現代を舞台にした作品なので、今回の収録は見送られたようだ。どちらも面白い作品なので、それぞれの作者の本に収録される日を楽しみにしている。

 さて、本書の成り立ちはこれくらいにして、各話について触れていこう。冒頭は夢枕獏の「むしめづる姫」だ。もちろん「陰陽師」シリーズの一篇である。橘実之の娘の露子姫は、万物の現象を探究することを楽しみ、我が道を突き進んでいる。なかでも興味の対象になっているのが烏毛虫(毛虫)だ。娘の行いに匙を投げている実之だが、飼い始めた黒丸という毛虫が、信じられないほど巨大になっていることを心配。陰陽師の安倍晴明に助けを求める。続けて露子も来訪。そして晴明は親友の源博雅と共に、橘邸に赴くのだった。

2023.04.01(土)
文=細谷 正充(文芸評論家)