この記事の連載
灯台はなぜ美しいのか
それにしても、どの灯台もどうしてこれほど美しいのだろう。
それぞれに形は違うが、いずれもまわりの風景と不思議なほどに調和し、独自の輝きを放っている。なぜそうなのかという疑問を長い間持ちつづけてきたが、近頃その答えのヒントとなる文章に出会った。
谷川竜一著『灯台から考える海の近代』(京都大学学術出版会)の中で、日本は戦前に韓国の蔚山市に蔚崎灯台を建てたが、この灯台の先には巨大な岩があり、そこが韓国人たちにとって重要な場所として祀られてきたことが紹介されている。
そして谷川氏は、「航海の難所や岬の突端などの象徴的な場所は、そうした伝説や祈りの場所としてふさわしいからであり、同時にそれは灯台が光を海上に送る場所としては適切な場所だからです」と記す。
そうした考察の上で、「建造物を造るということは、単にモノを造っているのではなく、その場所の意志とそこに託された人々の願いに対して、その時代の姿を与える行為であると考えることができるでしょう」と述べている。
日本に3,000以上もあるという灯台も、「その場所の意志」と「託された人々の願い」に即するように作られている。だから設計や建築に当たった人々は、その場の意志と人々の願いを汲み取り、最善の場所を選び、最善の姿を与えようと全身全霊をそそいだ。
そのために灯台は単なる実用性を越え、その地域の歴史や文化、自然環境にもっともふさわしい芸術性をおびたものになったのではないか。だからどの灯台もあれほど周囲の環境としっくりとなじんでいるのだろう。
だとするなら我々は灯台を巡ることで、日常生活で見失なった何かと再会できるということだ。その何かは見る人の感応力によってちがうだろうが、人と自然に対する認識を新たにし、自分を、そして日本を発見するきっかけをもたらしてくれるのではないだろうか。
》次回からの灯台巡りの旅は、阿部智里さんにバトンタッチ。八咫烏の聖地・和歌山県の潮岬灯台を訪れます。
立石岬灯台
所在地 福井県敦賀市字立石エリヶ崎
アクセス JR敦賀駅からコミュニティバス「常宮線」で「立石」下車、登山道徒歩約300m、北陸自動車道敦賀ICから車で立石集落まで約45分、立石集落から登山道徒歩約300m
灯台の高さ 7.9m
灯りの高さ※ 122m
初点灯 明治14年
https://romance-toudai.uminohi.jp/toudai/tateishimisaki.php
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。
海と灯台プロジェクト
「灯台」を中心に地域の海と記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/
「海と灯台サミット2022」に登壇!
次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人をつなぐ「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として、開催された「海と灯台サミット2022」。安部龍太郎さんは、灯台をよく知ることで、その土地の歴史や地理・航海条件がよりクリアに見えてくると解説しました。
オール讀物2023年1月号(文藝春秋100周年記念号)
定価 1,000円(税込)
文藝春秋
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その土地の物語を読み解く
“灯台巡り”の旅へ
2023.02.12(日)
文=安部龍太郎
撮影=橋本 篤
出典=「オール讀物」2023年1月号
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