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 アシェット・デセールとは、レストランなどで料理の後に提供される皿盛デザートのこと。そのアシェット・デセールを料理とは切り離し、それだけで注文して楽しめるパティスリーや専門店が続々とオープンし、注目を集めています。

 アシェット・デセールの醍醐味はなんといっても、瞬間の芸術とも呼ぶべき、決して持ち帰ることのできないできたて・つくりたてのおいしさです。この秋、極上のおいしさに酔いしれてみせんか?


シェフのクリエイションをU字の舞台で

 「自由な発想、記憶に残るクリエイティブ」をコンセプトに、独創的で洗練されたスイーツが人気を集める、赤坂「リベルターブル」。そのイートインスペースが、2022年9月1日、一ツ木通りを挟んだ店舗の向かいにグランドオープンしました。

 シェフの森田一頼さんが作り上げた黒とゴールドを基調としたモダンでスタイリッシュな店内に浮かび上がるのは、温かな光を放つU字形のカウンター席。足を踏み入れただけで、否応なしに期待が膨らみます。

 店舗で販売されているお菓子やパンももちろん、紅茶やコーヒー、ジュース、ワインなどとともに楽しめますが、せっかく訪れたならばぜひ味わいたいのは、この場でしか味わえないアシェット・デセール! 常時約3種がメニューに並び、上質感あふれる季節の香りを堪能できます。

トリュフが香り立つ珠玉のひと皿

 「リベルターブル」といえば、フォワグラとリンゴを合わせた「ゼニス」や、チョコレートとトリュフを合わせた「リュクス」といった、シェフの森田さんならではのスペシャリテを思い出す人も多いことでしょう。「黒トリュフのクレープ 黒トリュフのグラスとシェリー酒ソース」は、その真骨頂ともいえるひと品。

 黒トリュフを混ぜ込んで1日休ませたクレープ生地を、注文を受けてから焼き上げ、バターとカソナードを巻き込みます。そして、黒トリュフのアイスクリームをのせて、上からトリュフオイルとフルール・ド・セル(海塩)をふりかけ、スライスした黒トリュフをたっぷりと。

 目の前に運ばれてきた瞬間から立ち上る黒トリュフの芳香にノックアウトされてしまいます。香ばしく焼かれたクレープを口に運べば、噛むごとに黒トリュフの香りがあふれ、アイスクリームやスライスなど幾重にもトリュフの香りが重なって増幅。ときどき現れる塩気が心地よく、皿の上に添えられた煮詰めたシェリー酒の甘みが心地よいアクセントに。至福の余韻に包まれます。

 「お菓子とは違い、温度感をつけて立体的な味わいを表現できるのが、アシェット・デセールのよいところ。温かいと、黒トリュフの香りがより広がりますね」と、森田さん。

 そもそも「リベルターブル」は、パティシエの感性とフランス料理を融合するという、他にはない前衛的なフルコースを楽しめるレストランとして、2010年、南青山に誕生しました。その後、2013年の赤坂への移転に伴い、テイクアウトを中心としたパティスリーのスタイルに。それから10年近い年を経て、森田さんと多くのファンの願いが叶い、つくりたて・できたての料理やアシエット・デセールの感動を再び味わえる場としてオープンしたのが、このイートインスペースというわけです。

 「テイクアウトでも印象に残るお菓子を目指してやってきましたが、やっぱりできたてが一番おいしいよな、という思いはいつもありました。やっとこうして提供できる場所ができたので、今はただ、自分がおいしいと思うものをつくって、できたてを目の前でお客様に食べていただくことをシンプルに楽しみたいと思っています」と話す、森田さん。

 そのなかでも心境の変化はあったと言い、「リベルターブルを始めた頃は、どちらかといえば足し算の調理法でしたが、仕事をするなかでいい食材にもたくさん出合い、だんだん引き算に。素材のよさをそのまま伝えたいと思うようになりました」。

2022.09.27(火)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵