アシェット・デセールとは、レストランなどで料理の後に提供される皿盛デザートのこと。そのアシェット・デセールを料理とは切り離し、それだけで注文して楽しめるパティスリーや専門店が続々とオープンし、注目を集めています。
アシェット・デセールの醍醐味はなんといっても、瞬間の芸術とも呼ぶべき、決して持ち帰ることのできないできたて・つくりたてのおいしさです。この秋、極上のおいしさに酔いしれてみせんか?
季節感を大切にした、メレンゲのデザート「ヴァシュラン」
一枚板のカウンター席に腰かけ、運ばれてきたのは見るからに儚さ漂う、球体のメレンゲのデザート。季節ごとに使用する素材や装いを変えてオンメニューされる「ヴァシュラン」(メレンゲとアイスクリームのデザート)は、ワインバーとアシェット・デセールの店という2つの顔を併せ持つ、東京・青山「EMMÉ(エンメ)」のスペシャリテのひとつです。
訪れた9月に提供されていたのは、「和梨とセロリとカボスのヴァシュラン」。メレンゲの上には薄切りの和梨とシャインマスカット、セロリの新芽があしらわれ、光に透ける姿がなんとも繊細でため息の出る美しさ。
ナイフを入れるとココナッツのメレンゲが軽やかに崩れ、中から和梨のグラニテ、セロリとカボスのさわやかでほろりとしたシャーベット、香り高いラム酒のジュレ、酸味のあるカボスのクリーム、ココナッツのクリームが現れます。皿を彩るヨーグルトのソースと自家製ハーブオイルをからめていただけば、さわやかさとほどよい青み、そしてみずみずしさがバランスよく調和。清々しい余韻にやさしく包まれます。
レストランで身に着けた、食材の自由度
「EMMÉ(エンメ)」が誕生したのは、2019年。パティシエの延命寺美也さんが、ソムリエである夫の信一さんとともに開きました。夜はシャンパーニュを中心としたワインやお酒と料理が中心となりますが、明るい時間の主役は華やかなアシェット・デセール! パフェも含め、常時約6種がそろいます。
都内のパティスリーを経て、東京・竹芝の「ツキ・シュールラメール」や東京・青山の「ラチュレ」などのレストランでシェフ・パティシエを務めた経歴を持つ、延命寺さん。当時から、そのクリエイティブで素材の持ち味を生かしたデザートは人気を博し、大きな注目を集めてきました。
さきほどの「ヴァシュラン」も、その頃から提供している代表作のひとつ。「デザートでは、お皿が運ばれてきたときの香りから、食べて広がる香り、余韻の香りまで、香りの調和を大切にしています。レストランではさまざまな食材に触れる機会があり、フキノトウやフォワグラといった本来はデザートで使わない素材も取り入れることもありました。そうするうち、『これは料理、これはデザート』と使う食材の制限をつけているほうがおかしいな、と思うようになったんです」と、延命寺さん。
「今は、固定観念にとらわれずに食材を選び、スタッフと一緒にアイデアを出し合いながら幅を広げ、『こういう風にしたらもっとおいしい!』という提案をしたい。それが、エンメらしさだと思っています」と、話します。
2022.09.29(木)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵