アシェット・デセールとは、レストランなどで料理の後に提供される皿盛デザートのこと。そのアシェット・デセールを料理とは切り離し、それだけで注文して楽しめるパティスリーや専門店が続々とオープンし、注目を集めています。
アシェット・デセールの醍醐味はなんといっても、瞬間の芸術とも呼ぶべき、決して持ち帰ることのできないできたて・つくりたてのおいしさです。この秋、極上のおいしさに酔いしれてみせんか?
そのスフレを食べにわざわざ鎌倉へ出掛ける理由
2021年9月、鎌倉にオープンしたカフェ・レストラン「レガレヴ」のスペシャリテといえば、「パリ左岸のスフレ」です。ふるふると揺れながら焼きたてのスフレが目の前に運ばれてくると、すぐさまナイフで穴が開けられ、とろりとしたキャラメルオレンジのソースをたっぷりと。
アツアツを頬張れば、表面はサクッ、中はふわふわのスフレから、奥深いアーモンドとヘーゼルナッツのプラリネが香り立ち、さわやかでほろ苦いソースとマッチします。その塩梅が絶妙で、まさにフランス人好みのふくよかさ! そばに添えられているブラッドオレンジのソルベを味わえば、ひんやりとした冷たさと果実味が舌を癒し、すっきりとした余韻を届けてくれます。
現在も、パリと鎌倉の二拠点で活動
「このデザートは、パリ最古のレストランとされる『ラペルーズ』から依頼を受けて、シェフ・パティシエとしてつくったもの。このレストランで歴史的に有名だったスフレのレシピを練り直し、新たな味わいが大評判となった、僕にとっても思い入れの深いひと品です」と語るのは、「レガレヴ」オーナーシェフの佐藤亮太郎さんです。
1996年に24歳でフランスに渡って以来、パティスリーやレストランでパティシエとして活躍。2014年に「RS Conseil」を立ち上げてからは、フランス各地のレストランやカフェのデザートや菓子のコンサルティングを手掛けてきました。鎌倉に「レガレヴ」を開いた今も、自宅があるフランスと日本を行き来し、変わることなく活動を続けています。
「店名の『Régalez-vous(レガレヴ)』は、食事を振る舞ってごちそうする時に使うフランス語で、『どうぞ心ゆくまで味わい満喫してください』という、おもてなしの気持ちの表現なんです」と、佐藤さん。ババやスフレ、クレープといったフランス人が愛する定番のアシェット・デセールを、王道から外れることなく味と質を磨き、オリジナリティある味わいに仕上げるのが、佐藤さんの目指すスタイルだと言います。
そして、「本来ならばレストランでしか味わえないアシェット・デセールを、日常のなかで気軽にゆったり楽しんでほしい」と、フランス随一のティーブランドとして知られる「ダマン・フレール」社の紅茶をポットで提供。それぞれのアシェット・デセール合わせて、選び抜いたフレーバーを提案しています。
イチジクとスパイス、そしてコーヒーの繊細な相性
定番はもちろんのこと、季節で移り替わるメニューにも楽しみがいっぱい。秋の始まりに提供されていたのは、「いちじくのバシュラン」です。一度ローストして味わいを凝縮させたイチジクのソルベと、表面をキャラメリゼしたフレッシュなイチジク、シナモンやアニス、バニラが香るとろりとしたイチジクのソースという、3つのイチジクが織りなす味わいの濃淡とコントラストが、この皿の主役。
そこに、カルーア(コーヒーリキュール)をふわりと香らせたエアリーなクリームと、軽やかなメレンゲ、ほろ苦いコーヒー豆入りのチュイル、シナモンを重ね、意外性のある香りと食感をプラスしています。「日本のイチジクを食べたときにどこか土っぽい香りを感じたんですよね。そこで、苦すぎずまろやかなコーヒーをアクセントとして加え、どちらとも相性のよいシナモンでバランスを取ることにました。チュイルのカリカリやイチジクの種のプチプチといった食感も楽しんでいただけるかと思います」と、佐藤さんは話します。
2022.09.30(金)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵