オペラとミュージカルでは見せ方が違う

――声楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか? やはりお母さんの影響ですか?

 13歳のときに子役でオペラ(「マクベス」)に出させてもらったんですが、同じ板の上でみんなでひとつのものを作り上げることにインパクトを感じて、また音楽劇をやりたいなという気持ちで声楽を始めました。あのときに、将来のヴィジョンみたいなものが見えたのだと思いますね。それまでは自分で音楽家になろうとも思っていませんでしたし、両親も音楽家にしようとは思っていなかったんです。ミュージカルは、20歳ぐらいまではほとんど見たこともなかったんですよ。

――ちなみに、オペラとミュージカルとの違いを一言でお願いできますか?

 マイクを使って歌うのがミュージカルで、使わないで生声で歌うのがオペラです。オペラは新作もありますが、みなさんが知っているスタンダードなもの、「カルメン」や「トゥーランドット」「アイーダ」などは電気が開発される前に作られた作品ですから。だから、いかに自分の声を劇場の空間の響きを使って観客に届けるか、という美学があるんですよ。ミュージカルはマイクありきなので、基本は芝居のときの発声法が違うんです。そんな見せ方の違いは大きいですね。

――話は前後しますが、高校・大学在学中からオペラ・オペレッタを中心に活動され、07年にはポップス、クラシック、ミュージカル各ジャンルのソリストが集まったヴォーカルグループ「エスコルタ」のメンバーとしてもデビューされます。そのきっかけは?

 大学(東京藝術大学)を卒業して、1年ぐらい経ったときに大学でお世話になった先生から「レコード会社でオーディションをやっているんだけど、テノールのパートで人材が不足しているので、明日受けてほしい」と連絡があったんです。もちろん、受かるなんて思ってもいませんでしたよ。ところが合格が決まり、しかもそのときにプロデューサーの方から「クラシックの発声法の素晴らしさをもっと広めたい」という話をいただいたんです。じつは、それまでオペラやオペレッタをやってきて、僕自身「ここは狭い世界だ」と感じていたんです。たとえば、日本で三本の指に入るテノール歌手について、その辺を歩いている人は全然知らないわけですよね。知っている人にとっては、ある意味、サッカー選手のような憧れの存在なのに……。

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2013.09.20(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Tadashi Hosoda
hair&make-up:Yasuhiro Fujii(igloo)