俳優・松坂桃李の“感度”の高さ

 多くの人にとって、映画にハマるきっかけは役者からだろう。推しの出演作を追いかけていく中でコラボレーションする監督や脚本家、或いはテーマ性へと派生していき、ディープな映画ファンへと成っていく。つまり役者とは、表現者でありつつ多様なクリエイターと出会わせてくれるコンシェルジュでもあるわけだ。その観点で見渡したとき、俳優・松坂桃李の“感度”が図抜けていることに気づかされる。

 パッとフィルモグラフィを眺めてみるだけでも、白石和彌(『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』)、藤井道人(『新聞記者』)、𠮷田恵輔(『空白』)、石川慶(『蜜蜂と遠雷』)等々、実力者の監督陣と次々に組んできた松坂。となれば「次は誰と組んでくれるのか?」と期待も膨らむが、我々の前に提示されたその名は……李相日。『悪人』『怒り』などで知られる李監督の約6年ぶりの新作に松坂が動くということは、すさまじい何かが待ち受けているに違いない。

 しかも、本屋大賞受賞作「流浪の月」(凪良ゆう)の実写映画化で、広瀬すず・横浜流星・多部未華子と共演。撮影監督はアカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョ。やはり松坂は、一流クリエイターとの縁がある。

 映画『流浪の月』(2022年5月13日公開)で松坂が扮するのは、女児誘拐の疑いで逮捕された男性・文。被害者とされた女性・更紗(広瀬すず)と15年ぶりに再会し、運命が再び動き出す――。

 CREA WEBでは、松坂桃李と広瀬すずの単独インタビューを連続掲載。第2弾は、松坂の語りで本作との歩みを紐解いてゆく。

正直「これはちょっと怖いな」とも思った

――『流浪の月』の第一報で「松坂さんが李監督と組む」と聞いたとき、「最高だ!」とテンションが上がりました。これはすごい化学変化が起きそうだぞと。

 おお(笑)。ありがとうございます!

――原作や脚本を読まれる前に、まず李監督とお会いしてから出演を決めたと伺いました。どのようなお話をされたのでしょう。

 まずはお会いしてお話ししたいということで、最初は作品の概要などは知らされずに監督、プロデューサーさん、チーフマネージャーさんと4人でざっくばらんに雑談をしていました。そのあと「じゃあ後はおふたりでどうぞ」という感じで李さんと二人きりになったんですが、体感20分くらいは沈黙していたんじゃないかな(笑)。でも全然気まずくなくて、きっと李さんは作品や物事に対してすごく真摯な方だと感じたんです。

 もともと李さんの作品を観ていつかご一緒したいなと思ってはいたのですが、お会いして改めてこれだけしっかりと向き合ってくださる方と作品を作りたいと思いました。ただやはり『流浪の月』の文は、自分のキャリアの中で最もハードルの高い役だと感じましたし、正直「これはちょっと怖いな」とも思ったんです。でも、李さんとだったら役も作品も含めて乗り越えていけると思い、「ぜひやらせてください」とお受けしました。

2022.05.06(金)
文=SYO
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=AZUMA@ M Rep By Mondo Artist
スタイリスト=丸山晃