“青春のもどかしさ”みたいなものを嫌みのない言葉で表現
山口 今回、伊藤さんが取り上げたいのは「Faraway」の方なんですよね?
伊藤 実は、そっちなんですよ(笑)。「Faraway」を最初に聴いたとき、シンガーソングライターとしてのmiwaを感じたんです。「Kiss you」のほうでTVアニメのタイアップが決まる前までは「Faraway」をA面シングルとしてリリースするつもりだったのでは、と勝手に勘繰っていたりして(笑)。
山口 そういう話になると、スタッフの苦労を思って、胃が痛くなります(笑)。
伊藤 でも実際、「Faraway」を聴いてみたら、冒頭から摑まれちゃったんです。メロディーには一種のフォークソング的な泥臭さがあって、そこに乗っている歌詞が良い意味で“暗さ”を放っている。でも、歌詞の中には「タイムマシン」や「透明マント」というビビッドな言葉もちりばめられていて、“青春のもどかしさ”みたいなものを嫌みのない言葉で表現している。なによりも、彼女がこの作品をとおして「これが、いまの自分の表現したいこと!」っていうアーティストとしての主張を声にしているところが魅力。それでも、サビはしっかりとシングル曲を意識していて、シンプルに感情を歌うことで、ちゃんとキャッチーなんです。
山口 同感です。
美大卒の23歳女子がアクセサリーを手作りする姿が浮かぶ
伊藤 この曲を聴いていると、彼女がシンガーソングライターとしてモノを作る立場で、この曲を歌っている感じがするんですよ。
山口 個人的なことを突き詰めると、ぐるっとひっくり返って、普遍性を持つというのが、シンガーソングライターの楽曲のダイナミズムですよね。
伊藤 そうそう。そう思って聴くと、例えば「美術系の大学を卒業した23歳女子が就職もせずに、自宅でアクセサリーを黙々と作っていて。そのアクセサリーを“手作り市”みたいな所で手売りをしたり、自身のホームページで販売してみるが、ちっとも売れない。アクセサリーショップやセレクトショップなどに営業しても、なかなか店に置いてもらえない。日々、そんな悔しい思いをしながらも、自分が作るものだけは信じている。絶対にあきらめないと心に言い聞かせながら作り続ける。そして果てない夢に想いを馳せる。いつか個展を開き、自身のアクセサリーブランドを立ち上げ、世界中の人に自分の作るアクセサリーを知ってもらえるように。」みたいな。なんかそんな絵が見えてきて、BGMにはこの曲が流れている。物作りっていっても、それが伝統工芸でも野菜でもいいと思うんですけど、モノヅクラー(物作りをする人)のハートに刺さる楽曲になっていますね。
山口 なるほど。さすが、作詞アナリスト! 透視できているみたいですね(笑)。ネット上のブログをクローリング検索してもらったのですが、かなりバズってますね。新たな興味を持っているポジティブな言及が多いようです。アニメ主題歌であることや、夏フェスなどへの出演もテコになっているようで、楽曲が先行した状態から、アーティストとしての本格的なブレイク前夜という気配を感じます。注目しましょう。
miwa「Faraway/Kiss you」
ソニー・ミュージックレコーズ 9月4日発売
通常盤\1223、初回限定盤\1575(CD+DVD)、アニメ盤\1300(デジパック仕様/9月末までの期間限定生産盤)
■現在、サードアルバム『Delight』が大ヒット中のシンガーソングライター、miwaがリリースする12枚目のシングル。「Kiss you」は、フジテレビ“ノイタミナ”アニメ「銀の匙 Silver Spoon」オープニングテーマ。
■「Faraway」作詞・作曲/miwa 編曲/Naoki-T
■「Kiss you」作詞・作曲/miwa 編曲/Naoki-T
オフィシャルサイトURL www.sonymusic.co.jp/artist/miwa/discography/SRCL-8350
【動画サイト】
「Faraway」
URL www.youtube.com/watch?v=7Auj1C2_KXc
「Kiss you」
URL www.youtube.com/watch?v=IF1_XGx74O8
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2013.08.29(木)