「プロデュースワークとアーティスト性」のギリギリのバランス
山口 そこの区別ってあるよね。じゃあ、今回は、「プロデュースワークとアーティスト性」のお話をしたいと思います。実際にどういう作品作りをするかと、ユーザーにとっての「手に取りやすさ」「愛され方」って、別のレイヤーの話ですよね。プロデュースワークとしては、その辺の「さじ加減」って、難しいなって、いつも思います。
伊藤 そうですね。思うんだけど、良い食材をいかに美味しく料理するか、それがプロデュースワークだと。でも結局のところ、どんなに華やかで素晴らしい料理ができても、食べる人が楽しんでくれないと意味ないし。
山口 昨今はアイドル全盛時代じゃない? ユーザーが、プロデューサーのつくった枠の中で、一緒に楽しむというスタンスになっている。AKB48とか典型ですけれど、秋元康を中心としたスタッフが、全部決めていて、その枠内でアイドル達が活動しているのに、参加するという楽しみ方になっているよね?
伊藤 そういう意味では、ジャニーズにも、時間をかけて作り上げたアイドルのプロデュース・セオリーみたいなものがあって、現場のディレクターも無意識にジャニーさんのプロデュースを“伝統”として受け継いでいるんですよ。そしてユーザーもその伝統を理解しているから、作品を通してユーザーとアーティストのマリアージュ感はハンパない。だからコンサートでの一体感には、他のアイドルにない世界がある。
山口 なるほどね。日本のユーザーの楽しみ方はとても洗練されていると思います。「お約束」的な前提がしっかり守られているというか。
伊藤 ですねー、日本独自の「お約束」もいっぱいありますしね。ところで、山口さんはmiwaに関しては、どんな感想をもっていますか?
山口 miwaのクリエイティブの現場が実際にどのように行われているかは知らないのですが、「アーティストらしく見せる」というのも、一つのプロデュース手法ですよね。例えば、初期のYUIとか絢香は、とても上質なプロデュースワーク主導の作品というように思えました。
伊藤 シンガーソングライターという商品を、スタッフワークできちんと作り上げていますよね。アーティスティックなんだけど手が届きそうな、ギリギリな感じがユーザーの心をくすぐっているんじゃないですか?
山口 そう思います。「置き場所」が絶妙でした。
かつては存在したA面とB面それぞれの役割とは?
伊藤 今回のmiwaのシングルは両A面なのですが、「Kiss you」の方はTVアニメ「銀の匙 Silver Spoon」オープニングテーマになっています。楽曲はサマソンの王道って感じで“夏の恋”を歌っているんだけど、なんかタイアップのための書き下ろし感はないんですよね。マンガ「銀の匙」は読んだことあるんですけど、そんなに恋愛度の強いストーリーじゃないし、どうしても“Kiss”と言葉もリンクしない。本当は夏のライブの為に作った曲がたまたまタイアップに起用されて、だったら両A面で出そうって感じなんじゃないかなと。
山口 っていうか、今でも「両A面」って表現はありなの? 今の若い世代に意味は伝わるのかなぁ(笑)。レコード時代に始まった言葉で、僕は好きですけれどね。A面とB面という位置づけがあって、ラジオなどで推す曲はA面曲で、B面の楽曲はアーティストのアイデンティティを補足的に伝えて、アルバムに繋ぐというような役割というのは、一般的な位置づけでした。
伊藤 今ではB面はカップリングと呼ばれるのが一般的ですね~。カップリングはアーティスト・アイデンティティを伝える為のモノというよりも、おまけ感が強い。アイデンティティはアルバムで、カップリングは販促ツールって感じです。
<次のページ> “青春のもどかしさ”みたいなものを嫌みのない言葉で表現
2013.08.29(木)