ダメな時は無理に前を向かない。それが私のリセット法

――大事な舞台を控え、健康管理もいつも以上に大変になってきますね。

 免疫力が下がらないよう、体を絶対冷やさないと決めて、稽古場でも引くほど体じゅうにカイロを貼っています(笑)。「首」とつくところは全部温めたほうがいいと聞いたので、足首にもしっかりウォーマーをして。食事についても、映像のお仕事の時は次の日の撮影を考えて食べるのをセーブすることもあるんですけど、舞台だとそこまでダイレクトに顔の丸さとか見えないと思うので(笑)、しっかり3食食べています。

――コロナ禍で外食の機会も減っていると思いますが、料理はお好きですか?

 そうですね、基本的に自炊ですね。この1年ぐらい趣味で器を集めているんですが、器を変えるだけで料理のモチベーションってこんなに変わるんだ!って発見しました。この器に似合うようにお料理を盛り付けるとか、このお皿を使いたいからもうひと品作るとか、器を集めることによって生活は変わりましたね。食事って必ずある日常ごとですけど、器で自分自身のモチベーションを上げてご飯を作るってすごくいいな、始めてよかった趣味だなって思っています。

――3度の食事が楽しくなると健康管理にもつながりますしね。

 そうですね。あと気をつけているのは、気持ちかな。悪い方に考えすぎるとメンタルに来ちゃうタイプなので、友だちの舞台がコロナで中止になったというニュースを聞くだけで、『こっちもまた中止になったら……』って頭がおかしくなりそうになるんです。だから、悪いことは考えず、「これだけ気をつけているんだから大丈夫」と思うようにしています。

――メンタルが弱いとは、ちょっと意外ですね。

 まわりで自分より弱い人を見たことがないっていうくらい、メンタルが弱いんです。自分でも笑っちゃうぐらい「なんでこれぐらいのこと」っていうことを1カ月ぐらい引きずっちゃうし、人の目とかが急に怖くなったりする時期とかもすごく多くて。10代の頃からずっとこうなんですけど、なかなか気持ちの付き合い方というか、ポジティブに変える方法が分からなくて。

 でも、もう「前を向かなきゃ」って思うことをやめたんです、二十歳ぐらいの時に。なんで前を向かなきゃいけないんだろう、無理に元気になる必要はないんじゃないかって思った。それが私にとっていちばん向いているリセット法でしたね。

――後ろ向きなら後ろ向きでしかたないと、ある意味ではネガティブをポジティブにとらえる?(笑)

 そうですね(笑)。あと、家族の存在も大きくて。無理に元気になろうとすると心がぐちゃぐちゃになっていく感覚があるので、「今はだめだ、落ち込んでいる時期だ」と思ったら、ダンナさんに話すこともあります。そうすると、全部ポジティブに変えてくれるので、いったんそこで気持ちのもやもやを解消する。「前はこっちだよ!」って教えてもらっている感覚です。

――ご主人の内山拓也さんは映画監督ですから、演技のうえでも良き相談相手かもしれませんが、性格的には全然違いますか?

 基本的に全部真逆だと思います。だからこそ、だいぶ助けられていますね、この稽古期間も。彼は映画の人だけれど演出という意味では共通することも多いと思うので。

――そうやって頑張って作ってきた舞台が間もなく初日を迎えます。怖いというお気持ちですか、それとも楽しみですか?

 私アガリ症で、人前が本当に苦手なんです。映像はスタッフさんしかいないから大丈夫なんですけど、人生で多分、新国立中劇場ほどの大きなところで人前に立ったことがなくて、本番初日、舞台の上に立ったときにどうなるのか、想像もつかない。

 だから、まだちょっと楽しみだなと思える余裕はないですね。たぶん本番が終わってもないんじゃないかな。でも、上演がすべて終わった時に、一つの作品を作り上げることができたんだな、楽しかったなって感じられたらいいなと思いますね。そして、私自身が映画で見て感じたこの作品の楽しさを、これから舞台を見てくださる方たちにも感じていただきたいと願っています。

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萩原みのり(はぎわら・みのり)

1997年生まれ。愛知県出身。2013年テレビドラマ「放課後グルーヴ」で女優デビュー。近年の主な出演作に、映画「お嬢ちゃん」 (2019年)、「37セカンズ」「佐々木、イン、マイマイン」(2020年) 、「花束みたいな恋をした」「街の上で」「成れの果て」(2021年)、テレビドラマ「RISKY」「ただ離婚してないだけ」(2021年)など。舞台は「遊侠 沓掛時次郎」(2016年)以来二度目の出演。

舞台『裏切りの街』

出会い系サイトで知り合い、身のない「浮気」を繰り返す無気力なフリーター、菅原裕一と平凡な専業主婦、橋本智子。お互い、大切だと思えるパートナーがいるにもかかわらず、惰性ともいえる二人の関係は続いていく。現実からも将来からも目を背ける二人に待つ結末は……。この社会と時代、そして観る者自身を映し出す鬼才・三浦大輔の書き下ろし作品を新キャストで12年ぶりに再演。

作・演出:三浦大輔
音楽:銀杏BOYZ
出演:髙木雄也 奥貫 薫 萩原みのり 米村亮太朗 中山求一郎 呉城久美 村田秀亮(とろサーモン)
*開幕後当面の間は、智子役は奥貫薫に代わって呉城久美が、また裕子役は呉城久美に代わって日高ボブ美が演じます。

(東京公演)
日時 2022年3月12日(土)~3月27日(日)
会場 東京・新国立劇場 中劇場

(大阪公演)
日時 2022年3月31日(木)~4月3日(日)
会場 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
全席指定 10,800円

https://stage.parco.jp/program/uragiri2022/

2022.03.12(土)
文=張替裕子(giraffe)
撮影=深野未季
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリスト=伊藤信子