真っ直ぐに相手を見つめる大きな瞳が、ときにはフラジャイルな愛を物語り、ときには鋭く人の暗部を射抜く。そんなまなざしの持ち主、萩原みのりさんは、今さまざまな映画監督やプロデューサーから注目を集め、作品への出演が相次ぐ若手女優の一人だ。
彼女が今回挑戦するのは、『愛の渦』で2006年に岸田戯曲賞を受賞し、演劇界の鬼才とも称される三浦大輔さんの舞台『裏切りの街』。無気力なフリーター裕一と専業主婦智子が惰性のような浮気を繰り返す日々を描くこの作品で、萩原さんは裕一と長年同棲する恋人里美を演じる。映画『何者』でも出演した三浦作品への意気込みを、2022年3月12日の初日を控えて稽古真っ只中の萩原さんに語ってもらった。
コロナ禍を乗り越え、2年越しで実現した舞台
――萩原さんが三浦さんの作品に出演されるのは映画の『何者』以来で2作目になりますね。
そうなんです。お世話になっている方ですし、『裏切りの街』は映画で見てすごく好きな作品だったので、出演できることが決まった時は本当にうれしかったですね。
――映画版はどのような印象でしたか?
「楽しい」とか「ムカつく」とか「愛おしい」とか、人間の細かい感情がものすごくたくさん詰まっている作品で、映画館で見たときに「こんなにも出てくる登場人物みんなを愛してしまう映画ってすごいな」って思ったのを覚えています。男性と女性のお客さんが全然違うシーンで笑っていて、それもとても面白かった。
舞台になっている荻窪も、その後に行ったら景色がちょっと違って見えて、「あの人たちいるのかなぁ」って思ってしまったりして。そんな、現実と少し地続きに感じるような作品でした。
――その作品を舞台で演じることになって、萩原さんも意気込みが高まったかと思いますが、当初の上演予定だった2020年は、新型コロナウィルスの影響で稽古もオンラインだったそうですね。
そうなんですよ。恋人の菅原裕一役の髙木雄也さんとはオンラインで何度か本読みをしたんですけど、パソコンに向かって少し前屈みの状態でセリフを読み合うだけでした。
でも、いつかちゃんと会って稽古ができると思っていたので、そこに向けて準備をするという感覚だったんです。ところが、結局そのまま中止になってしまって。
――思い入れも大きかっただけに、ショックだったでしょうね。
三浦さんがオンラインミーティングで「中止になることが決まりました」と発表されたとき、もう涙が止まらなくて。この作品に出るのがとにかく楽しみで、目の前にいっぱいふせんを貼った台本があって必死で準備をしているところなのに、何か、全部取り上げられてしまったような気がして。何日も泣いて、いつまでもショックを引きずってしまいました。だから、今回上演が決まったときは、「やっとできる、よかった!」という素直な喜びしかなかったですね。
2022.03.12(土)
文=張替裕子(giraffe)
撮影=深野未季
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリスト=伊藤信子