共感か錯覚か分からなくなるのが、三浦さんの脚本のすごさ

――役作りの上で、いつも工夫されていることはありますか?

 台本を何回も読んでいく中で、その時に浮かんだ感情をまず順番に紙に書いて、流れみたいなものを1回考えたりしますね。誰に対してどう思っているのか、一人ひとりのキャラクターに対する気持ちとか。現実の人生でも、その人との関係性で喋り方って変わってくるじゃないですか。それを自分の中で分かりやすく整理するために、紙に書いて文字に起こすんです。

――じゃあ、今回演じている里美という女性についても、そうやって役作りを?

 里美は、演じる前はどういう子かキャラクター化してしまっていた部分があったんですよ。「ちょっと猫背?」とか、「芋っぽい?」とか、「優柔不断なのか、そうじゃないのか?」みたいにいっぱい紙に書き出してみたりして。でも、今はどんどんそれを排除していっているところなんです。どんな子なのかガチガチに当てはめないほうが、三浦さんの作品は面白いのかもしれないなって。

 ある程度自分の中に里美を落とし込んだら、あとは見てもらってお客さんが「里美ってこういう子なのかな」って考えてくださればいいし、その印象がそれぞれ違えば違うほどいいのかもって思うんです。実際、人の印象ってみんな違うじゃないですか。私のことをすごくクールそうだって言う人もいるし、全然クールじゃないねって言う人もいるし、それでいいのかな、と。

――里美はヒモ同然の裕一と別れることなく日々を送り、一方の裕一は専業主婦である智子と先の見えない浮気を繰り返しています。里美と智子という二人の女性に対して、萩原さん自身はどのように感じていますか?

 うーん、どちらも理解できないという部分はあまりないんですよね。二人のセリフを追っていると、自分の中にないはずの感情なのに、なぜかある気がしてくるんですよ。里美にしろ智子にしろ、彼女たちの経験も日常も分からないし、同じような人生を送っているわけでもないし、でも何か「分かる」って思っちゃう。自分自身が共感しているのか、錯覚して分かる気がしてきているのか、里美のセリフを毎日しゃべっているとだんだん判然としなくなる。それが三浦作品のすごさなのかなと思いますね。

2022.03.12(土)
文=張替裕子(giraffe)
撮影=深野未季
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリスト=伊藤信子