悪vs悪! 連続殺人犯がちょっかい出したのは剛腕自慢のヤクザのボス

◆『悪人伝』(2019年)

 韓国映画といえば、ダーティーな犯罪映画が優れていることでも有名ですよね。本作『悪人伝』もそんな映画のひとつ。注目すべきは何と言っても主演を務める剛腕強面俳優マ・ドンソクでしょう。

 本作で彼が演じているのは、ストライプ柄のスーツを着こなすゴリゴリのヤクザ組長チャン・ドンス。睨まれただけで寿命が2年くらいぶっ飛びそうな凶悪な眼光は、漫画だったら周囲の空気がグニャ〜っと歪むほどの凄まじい迫力に満ちています。

 そして本作にはもう一人の悪、キム・ソンギュ演じる連続無差別殺人犯が登場します。韓国中を震え上がらせる凶悪犯が、逃亡中に偶然襲撃してしまったのが、何を隠そう先述のドンス組長だったのです。姿を隠す殺人犯に復讐を誓うドンスの迫力は、つい犯人の安否を心配してしまうほど強烈。

 そんなハードな展開の合間に仕込まれたブラックな笑いにも注目。会食の場で飯も食わずにペラペラ喋り倒す相手に、ドンスが「黙って食え」と剛腕連続ビンタを打ち込むシーンからは、笑いと同時に黙食が叫ばれる今日学ぶべき“仁義”を感じ取れるはずです。

◎あらすじ

韓国のヤクザ組織のボス、チャン・ドンスは、ある日の夜何者かにナイフで刺されてしまう。一命をとりとめたドンスは、自分を刺した犯人に復讐するため犯人探しに乗り出し始める。一方、刑事のチョン・テソクはドンス襲撃の犯人が、未だ尻尾を見せぬ連続殺人犯の仕業であると睨んでいた……。

片田舎で暮らす素朴でキュートな女子高生が抱えた驚愕の秘密とは……?

◆『The Witch 魔女』(2018年)

 「ハードな犯罪映画の傑作が揃っている」という、昨今の韓国映画の風潮を形作った2013年の犯罪映画『新しき世界』。その監督を務めたパク・フンジョンが、なんと女子高生を主人公に撮った作品が『The Witch 魔女』です。

 18歳の女子高生ジャユンは、酪農家を営む養父母の家計を助けるために、テレビのオーディション番組に出演しようと都会に旅立ちます。物語の前半では純朴な女子高生のキラキラとした奮闘記が描かれ、観ているほうも思わず笑みがこぼれてしまうことでしょう。

 ですが、そんな青春劇は後半、顔面をドアガラスに叩きつけられるような急なカーブを描いて変貌を遂げます。それまでの可愛らしい笑顔から一転、能面のような表情で武装集団の脳天に正確無比な射撃を打ち込んでゆくジャユン。思わず「な、何が起こっているんだ……?」と困惑することでしょう。

 8歳のときに失ったジャユンの記憶の謎が明かされる終盤の大バトル展開は、衝撃と興奮が交互に入り混じり、居ても立っても居られなくなります。若いながら純粋さと狂気を同居させたジャユン役のキム・ダミの名演も必見な傑作映画です。

◎あらすじ

8歳の時に記憶を失った少女ジャユン。10年後、育ての親である酪農家夫婦のもとで養子として育てられた彼女は、家計を助けるためにテレビのオーディション番組でマジックを披露する。だが、そこで見せた驚愕の能力は、彼女を狙う謎の組織を引き寄せてしまう……。

――今回ご紹介した5作品は、観終わった後「ふぅ〜……」と安堵のため息を漏らしてしまう作品ばかり。緊迫展開が魅力の韓国映画の世界を、ぜひ覗いてみてください。

2022.01.27(木)
文=TND幽介〈A4studio〉