発売中の雑誌『CREA』2021年秋号「明日のためのエンタメリスト」より、「今なりたい気分」に寄り添う名作映画32選にて、紹介しきれなかった作品の数々を秋の夜長にちょっとずつご紹介します。

 まずは、映画を愛する9人が、折に触れ繰り返し観るという「人生の1本」とは!?


カルト的人気を誇る近未来SF短編の傑作

『ラ・ジュテ』

「モノクロ写真の連続のように構成された“フォト・ロマン”として有名な作品だけど、1場面だけ動きがあって、その瞬間のたぐいまれな美しさを観たいがために、繰り返し鑑賞してしまう1本。30分もない短い作品なので、深夜、気が向いたらDVDを再生している」(青野賢一さん)

 写真家でもありジャーナリストでもあったクリス・マルケル監督が、1962年に手がけた短編映画『ラ・ジュテ』。ほぼ全編モノクロ静止画のスライドにナレーションのみで描く、という画期的な技法で映画の概念を揺さぶる異色作。

 テリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』(1995)をはじめ、数多くの作品に影響を与え続けている。

●あらすじ●

第三次世界大戦後、放射能に汚染されたパリでは、地下に潜った科学者たちがエネルギーや物資を過去と未来から調達すべく、捕虜を使った時間旅行実験を行っていた。そんな中、子どもの頃、オルリー空港の送迎台(=ラ・ジュテ)で見たイメージに取り憑かれていた男が治験者に選ばれる。かつて見た忘れがたい光景が実は……。

『ラ・ジュテ デジタル修復版』

監督:クリス・マルケル
出演:エレーヌ・シャトラン、ダヴォ・アニシュ、ジャック・ルドーほか
1962年/フランス/28分 © 1963 Argos Films
Blu-ray 4,180円(税込)
発売元:WOWOWプラス 販売元:KADOKAWA

新作が出たら必ず観て浸るウディ・アレン作品

「気分によって映画を観ているので、『特にこの1本を!』と見返すことはありません。ただ、ウディ・アレンの作品が好きなので、新作が出たら必ず観ています。なかでも、『カフェ・ソサエティ』や『インテリア』などのファッションやインテリアは、今の時代にも参考になります」(古牧ゆかりさん)

ウディ・アレン

1935年生まれ。米ニューヨーク州出身の映画監督・脚本家・俳優。『泥棒野郎』(1969)で監督デビュー。『アニー・ホール』(1977)でアカデミー監督賞と脚本賞、『ハンナとその姉妹』(1986)『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)でアカデミー脚本賞を受賞。『マンハッタン』(1979)『セレブリティ』(1998)『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019)ほか作品多数。

鬼才ポン・ジュノが描く未解決事件の衝撃的な闇

『殺人の追憶』

「一言でいうならば、圧倒的なリアリティ。そのリアリティが頭の中のノイズを消し去り作品に惹き込んでくれるので、頭の“ととのい”をしたい時によく観ています」(菅原敬太さん)

 『パラサイト 半地下の家族』で、韓国映画として史上初となるカンヌ国際映画祭パルムドールに輝き、第92回アカデミー賞では作品賞含む最多4部門を受賞するなど、世界がその才能を絶賛するポン・ジュノ監督。

 その名前を有名にした『殺人の追憶』は、80年代後半に韓国で起こった当時未解決だった連続殺人事件をモチーフにしたミステリーの最高傑作! 約30年もの時を経て2019年、真犯人が特定されたことでも話題に。

●あらすじ●

ソウル近郊の農村で若い女性の変死体が発見された。捜査が難航する中、同じ手口の連続殺人事件が発生。地元の刑事とソウル市警から派遣された刑事がこの難事件に挑むも、殺人犯に翻弄され、追い詰められていく。性格も捜査方法も対照的な二人は衝突しながらも、ついに有力な容疑者を捕らえるのだが……。

『殺人の追憶』

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、キム・レハ、パク・ノシク、パク・ヘイルほか
2003年/韓国/131分
© 2003 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
Blu-ray 4,400円(税込) DVD 3,520円(税込)
発売・販売元:TCエンタテインメント

2021.10.13(水)
文=大嶋律子(Giraffe)