変なもの、気持ち悪いもの、気味の悪いものが好き

――吉開さんの映画には、常に毒のような鋭い何かが隠されている気がします。ご自身では何か意識はされていますか。

 ちょっとぞわぞわっとする感じが感覚的に好きですね。変なもの、気持ち悪いもの、気味の悪いものが好きです。

――自分が見る際もそういう作品がお好きなんですか。

 はい。いわゆるファンタスティック映画と呼ばれるものが多いですね。今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したジュリア・デュクルノー監督の前作『RAW 少女のめざめ』(16)とか、人食い人魚姉妹の映画『ゆれる人魚』(15)や『ネオン・デーモン』(16)も好きです。

――どれも人食い系の映画ですね。

 でもゾンビ映画とはちょっと違うかも。たとえば「彼を食った」って言葉は「彼の体を食べた」という意味のほかに「彼を寝取った」という意味にも聞こえますよね。そういう別のストーリーを想起させるような映画がおもしろいなと思います。

――「食う」が吉開さんにとって重要なテーマなんですね、きっと。

 よく言われます。口を介してばっかりいる映画だねって。呼吸したり吐き出したり食べたり(笑)。

――最後に、吉開さんにとって『Shari』はどういう映画ですか?

 まずは体にばーんと衝撃を受けて、じわじわっと現実の言葉が伝わって、そこから自分の生活につながっていくような、そういう映画体験になったらいいなあと思っています。私が斜里で鹿肉を食べたような感じかな。どうぞみなさん、『Shari』を食べてみてください、眠れなくなるかもしれないけど、みたいな(笑)。

吉開菜央(よしがい・なお)

1987年、山口県生まれ。映画作家・振付家・ダンサー。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業、東京藝術大学大学院映像研究科修了。作品は国内外の映画祭での上映をはじめ、展覧会でもインスタレーション展示されている。またMVの監督や、振り付け、出演も行う。2019年に監督した短編映画『Grand Bouquet』は、カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待された。その他主な監督作に『ほったまるびより』(15)『静坐社』(17)『梨君たまこと牙のゆくえ』(18)など(いずれも短編作品)。2020年12月には自身にとって初の監督特集上映「Dancing Films」が開催された。

映画『Shari』

公開:2021年10月23日(土) ユーロスペース、アップリンク吉祥寺他全国順次公開
配給・宣伝:ミラクルヴォイス
監督・出演:吉開菜央/撮影:石川直樹
出演:斜里町の人々、海、山、氷、赤いやつ
助監督:渡辺直樹/録音・音楽:松本一哉/音響:北田雅也/アニメーション:幸 洋子
2021年/ビスタ/5.1ch/カラー/日本/63分
https://shari-movie.com/

2021.10.20(水)
文=月永理絵
写真=榎本麻美