瀧内公美と映画『由宇子の天秤』
役者・瀧内公美。彼女のフィルモグラフィは、ざっと見ても濃い作品ばかり。『さよなら渓谷』(2013)、『グレイトフルデッド』(14)、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『彼女の人生は間違いじゃない』(17)、『火口のふたり』(19)、『アンダードッグ』(20)——。
限界を設けずに次々と野心的な作品に飛び込んできた彼女が、観る者の価値観を揺さぶる力作を世に放つ。21年9月17日(金)に公開を迎える『由宇子の天秤』だ。
各国の映画祭で賞に輝き、21年に入ると第71回ベルリン国際映画祭・パノラマ部門に公式出品され、話題を集めた本作。
ドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内)は、女子高生いじめ自殺事件の真相をあぶりだそうとしていた。そんな折、学習塾を経営する父(光石研)からある衝撃的な事実を知らされ、自身の善悪の概念が揺らいでいく——。
俊英・春本雄二郎監督による驚きに満ちた精緻な脚本とリアリスティックな演出、瀧内の剃刀のように鋭い演技が収められた本作は、公開後、確実に話題を呼ぶはず。同時に、瀧内公美という表現者の凄みをより一層知らしめる作品となるに違いない。
今回は、瀧内にインタビューを実施。役者を目指した幼少期から、本作に至るまでの軌跡を語っていただいた。彼女の意志がこもった言葉の端々からは豊かな人間的魅力があふれ出し、作品ともどもあなたを包み込んでいくことだろう。
勝負できる場所を探していた
――春本監督の前作『かぞくへ』を観て、ご自身から「春本監督の作品に出たい」と直談判したと聞きました。どういったところに惹かれたのでしょう。
新たなキャラクターを開拓したいと思い、新しい作家の方を探していたんです。それができるのはインディーズ映画だと感じましたし、その中なら勝負できるんじゃないかという想いもありました。
そこで「ご一緒できる方いないかな」と2年ほどミニシアターにかかる作品やインディーズ映画を観まくっていた時期に、『かぞくへ』の春本監督と出会いました。出演している役者の皆様のお芝居が素晴らしく、胸を打たれるものがありました。脚本の展開も滑らかで。トークショーでも垣間見えた、とてつもない映画知識をお持ちな春本監督となら化学反応も起こせるんじゃないかと思い、お声がけさせていただいたんです。
春本監督は、とにかく意志が強い方。本作でも監督・脚本・編集・プロデュースを全部おひとりで担当して、「自分の作りたいものを作る」ことを徹底されています。つまりビジョンがはっきりと決まっているので、一緒にものづくりをすることは修業のようにきつい瞬間もありますが、すぐに連絡を取って密にやり取りしながら作品を作ることができる面白さもあります。とにかく多面的に「人間を映し出す」という芯の強さにあふれた監督だと思います。
――2年かけて作り手を探し続けたとは、素晴らしいバイタリティですね。
それまではオーディションを受けたり、事務所の方に「こういう役があるけどどうする?」と提案をもらい、台本を読ませていただいたうえでお受けするという形が多かったのですが、ある種既存の監督とご一緒していると、すごくありがたい反面ちょっと甘えた気持ちというか、どこかフォーマットの中に自分が入っている感覚になってしまうんです。
ちょうどその時期はフリーだったこともあって、自分でプロフィール表と『彼女の人生は間違いじゃない』(17)のDVDを名刺代わりとして配りながら、勝負できる場所を探していたんですよね。
2021.09.16(木)
文=SYO
写真=橋本篤
ヘアメイク=小林潤子(AVGVST)