俳優として、歌手のadieuとして、目覚ましい活躍を見せている上白石萌歌さん。現在21歳の彼女が、2019年に10代最後の夏を捧げた主演映画『子供はわかってあげない』がいよいよ公開される。

 彼女が演じる美波は、水泳部に所属する高校2年生。書道部男子のもじくんと好きなアニメの話題で意気投合したことをきっかけに、幼い頃に別れた父親の居場所を探し当て、夏休みに会いに行くことに……。と書くとややシリアスな物語のようだが、そこは『南極料理人』や『横道世之介』の沖田修一監督作品なので、ほのぼのとしたユーモアと優しさに溢れた青春映画になっている。

 「この作品を心から愛しているので、いろいろな人に観て欲しいですし、広がってほしいです。自分が出演した作品に対して、ここまで強く思えることが嬉しいです」と言う彼女に、作品についてはもちろん、撮影時から2年を経ての自身の変化や表現することへの思いを聞いた。

沖田監督の画の中にどうしても入りたかった

――沖田監督の作品が好きだったそうですね。例えばどの作品の、どんなところが好きですか?

 『南極料理人』は、私の好きな邦画ランキングにも必ず入る大好きな作品で、最近も見返したばかりです。大きな事件が起きるわけではないんですけど、うっかり笑っちゃうような余白があって。どこを切り取っても画になる沖田監督の世界がすごく好きです。ご飯もおいしそうです。

――ということは、『子供はわかってあげない』のオーディションには前のめりだったのでは?

 沖田監督の画の中にどうしても入りたいという気持ちが強かったので、緊張もしていたし、力も入っていました。でも、いざ現場に入ると、ここまで肩の力を抜いたことがないというくらい、沖田監督が柔らかくしてくださいました。

 撮影前に、もじくん役の細田佳央太さんとジェンガをしながらセリフを交わしてみたり、家族を演じるみなさんとトランプをしながらお芝居をしてみたり。演技をするという意識をどこまで抜けるか、みたいなワークショップを通して「沖田監督作品の生っぽい空気感ってこういう風に作られるんだ」と知ることができました。一人で頑張って役を作るのではなく、作品の空気の中で、キャストみんなで役を作っていく感じでした。

――クランクインは、校舎の屋上で出会った美波ともじくんが、大好きなアニメについて語りながら、階段を降りる長回しのシーンだったと聞きました。沖田作品はほのぼのしているように見えて、役者やスタッフに求めるハードルが実は高いですよね。

 たしかに! 緊張もしましたが、それ以上に「沖田さんの長回しだ!」という喜びが大きかったです。あのシーンは2分以上ある長いシーンなので、機材の移動が難しかったり、たまにスタッフさんの手が映り込んでしまったり、お芝居がスムーズではなかったりして、7〜8回やりました。

 何度も粘り強くやってくださったおかげで、後悔のないシーンが撮れました。ここからほぼ順撮りをしていったので、日焼け具合もリアルです。ラストの屋上のシーンでは、細田くんより肌が黒くなっていました。ああいうリアルさが好きです。

2021.08.19(木)
文=須永貴子
撮影=鈴木七絵
スタイリスト=道端亜未