「音楽が凹んでいた体に空気を入れてくれた」
――以前、上白石さんが「歌に救われてきた」とお話しされているのを耳にしました。どんな時に救われましたか?
表現することに関して落ち込んだ時に、表現が救ってくれました。それは歌だけではなくて、映画や演劇もひっくるめて。音楽は自分にとって、ご飯と同じくらい大切な栄養分です。本当にどうしようもないくらい心が沈んでいた時期に、音楽が凹んでいた体に空気を入れてくれました。
――いつ頃の話ですか?
2018年です。新しいものに遭遇した時に、戸惑ったり、自分はここにいていいんだろうかと思うことがすごく多くて。いろんな葛藤もありました。その時に、音楽に救われたんです。一番救われたのは、カネコアヤノさんの曲です。
カネコさんの曲は、自分だったら恥ずかしくて発信できないようなことも、むき出しで表現していて、お薬のような、お守りのような言葉がたくさんあります。アルバム『adieu 2』では、カネコアヤノさんに「天使」という曲を提供していただきました。
――それこそ、上白石さんの歌が「お守り」や「救い」になっている人がたくさんいると思います。上白石さんの歌声には「私の歌を聞け」という圧やエゴがなく、音楽という表現や、先達のアーティストへの敬意が感じられます。聴く人に寄り添っている。単刀直入に質問しますが、上白石さんは何のために歌っていますか?
少しでも聴いてくれる人の心を動かせていたらいいなあと思います。お芝居と歌は真逆だと思っていて。お芝居は、役という鎧を借りて他の人の人生を生きている。歌は、自分自身でしかないから、より見透かされている気がします。adieuとしては、最近「よるのあと」という曲に「すごく心が救われた」という反応をいただいて嬉しかったです。
――作詞への意欲はありますか?
すごくあります。もうちょっといろんな勉強をしてから、いずれ書けるようになったらいいなと思います。「作詞は裸になること」と、いろんなアーティストの方がおっしゃっているので、それくらいの覚悟が必要だと思っています。
2021.08.19(木)
文=須永貴子
撮影=鈴木七絵
スタイリスト=道端亜未