“出力”ではなく、お客さんに委ねる演技
――自分の身体を知ることで、より表現の幅も広がっていくんでしょうね。本作でも、由宇子がずっと感情を内に込めている姿が印象的でした。一般的な映画だったら声を荒らげてしまうシチュエーションも、ぐっと押し込めていく。
撮影に入る前に、春本監督と色々な作品を観て、「こういった芝居のトーンっていいよね」というのを共有しつつ、リハーサルをしっかりさせていただきました。それもあって、どういった出力の仕方が好みなのかは把握できました。私は当初、彼女に負荷がかかっていく姿をもう少しグラデーションを作って見せていくべきかと思っていたのですが、監督から「もっともっと内に込めて抑えてください」と言われました。
というのも、由宇子の反応を丁寧に表現しすぎてしまうと、それが一つの答えになってしまいますよね。つまり、わかりやすく出力するわけではなく、曖昧で抽象的なものにすることでお客さんに委ねる。
――劇中で「私は誰の味方にもなりません」だったり「正論が最善とは限らない」というセリフが出てきますが、そこにも通じますね。ただひとつ思うのは、演じる側からすると確固たる「正解」がないなかでの演技はなかなかハードルが高いのではないかということです。
そうですね、正解はあるんですけどそこを曖昧にしてく作業は大変でしたね。やっているときは「伝わるかな」という想いはありました。撮影中も「瀧内さんは感情が高まりやすいから、抑えてください」と言われて気を付けていましたね。
でも、簡単に答えを提示できてしまったら、この作品で描こうとしているものには辿り着けなかったと思います。苦しんでいるさますらも作品にとって必要なものではあったので、意味はあると感じています。
瀧内公美(たきうち・くみ)
1989年10月21日生まれ。富山県出身。内田英治監督『グレイトフルデッド』にて映画初主演。石井岳龍監督『ソレダケ/that’s it』や白石和彌監督『日本で一番悪い奴ら』などを経て、廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』に主演。2019年には荒井晴彦監督『火口のふたり』でキネマ旬報主演女優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。ドラマでは『凪のお暇』、『大豆田とわ子と三人の元夫』など。来春、マーク・ギル監督『Ravens(原題)』のクランクインを控えている。
映画『由宇子の天秤』
3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰り返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ“衝撃の事実”を聞かされる。
大切なものを守りたい、しかしそれは同時に自分の「正義」を揺るがすことになる。果たして「正しさ」とは何なのか――。
出演:瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 川瀬陽太 丘みつ子 光石研
監督・脚本・編集:春本雄二郎
プロデューサー:春本雄二郎 松島哲也 片渕須直
配給:ビターズ・エンド
製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会
9月17日(金)渋谷・ユーロスペース他全国順次ロードショー
https://bitters.co.jp/tenbin/
2021.09.16(木)
文=SYO
写真=橋本篤
ヘアメイク=小林潤子(AVGVST)