オダギリさんって、韓国の田舎でも人気者なんですよ
――韓国ロケで、どんな経験や刺激を得ましたか?
オダギリ 海外で撮影に参加することは、想像していただく20倍くらい大変です(笑)。毎日どんなトラブルが起きるかわからない、良くも悪くもスリルのある現場になるので、それに順応する底力みたいなものを試されます。全力で戦わないと相手にもしてもらえません。
日本でぬるま湯的に甘やかされる現場にいると、どうしてももやもやしたものが溜まってしまって。そういう自分をゼロに戻してもらえるので、海外での撮影は、自分にとっては何年かに一回はやらなければいけない、禊に近いものだと思います。
池松 いろいろありますが、日本のシステム化、合理化され、広く薄くを目指すモノづくりのルールや価値観では対応できないことばかりなので、そこが大変さであると同時に、面白さでもあります。
――現場でのコミュニケーションは、通訳さんを通してされましたか?
オダギリ はい。僕は韓国映画には何本か出ていますが、本当に片言しか話せないので。
池松 ヒロイン役のチェ・ヒソさんが日本に精通している方で、日本語が堪能だったんです。俳優部の通訳を買って出てくださる場面が多々あって、心強かったですし、本当に助けてもらいました。
日韓関係が年々悪化するなかで始まった企画でしたし、僕らが行った時は、日本製品の不買運動が一番盛んだった時でした。連日悲しいニュースをたくさん見にしました。にも関わらず、僕たちを利害関係なく、仲間として受け入れ、愛情を注いでくれた韓国スタッフには感謝してもしきれません。
オダギリ 打ち上げとかすごかったですよ。みんなで歌って踊って暴れまくっちゃって(笑)。
池松 荒れましたね(笑)。
オダギリ 国の関係や政治のことはまったく頭になくて、ひとつの映画のスタッフとして、そこにいる全員が家族でした。
池松 まさに映画の国でしたね。「あの日本映画が好きだ」「あの韓国映画が好きだ」という話になりますし、それだけで笑い合うことができました。
――好きな韓国映画を聞かれた時に挙げる作品や監督は?
池松 たくさんあります。ある程度韓国映画史として話ができますし、イ・チャンドン、ポンジュノ、数々の映画の話をすることができます。僕にはこれまで韓国映画史を通して韓国を把握してきたところはあります。
同様に、日本映画史によって、それ以外にも音楽やドラマやアニメなど、文化を通じて多くの人が互いの国と交流を深めてきたんだと思います。毎年どんな映画が生み出されて、ヒットしたりムーブメントが起こっているかなどはだいたい頭に入っていますから、そういう切り口での会話はできます。
昨年でいうと、『君の誕生日』という、セウォル号沈没事故で息子を亡くした家族を描いた映画は、よくある被害者視点の映画ですが、失われた数々の命に対して真摯で誠実な、いい作りでした。アジアの天使の韓国の長男、キムミンジェさんもワンシーン登場します。先日Netflixで観た『楽園の夜』もよかったです。
オダギリ イ・チャンドンもポン・ジュノも素晴らしいですけど、僕はやはりキム・ギドクですね。関係性が特別だったなので。
池松 オダギリさんの韓国での功績って、みなさんが想像される何倍もすごいんですよ。ど田舎のコインランドリーで、「オダギリジョーだ!」「『ゆれる』が好きだ!」「『東京タワー』見たぞー!」って大騒ぎになるんです。
オダギリ 田舎町で貴重なコインランドリーに行きにくくなりましたけどね(笑)。
池松 どこに行っても本当に大人気でしたよ。あの時代の日本映画が海を渡って、韓国の人にいかに好まれていたかということですよ。国や言葉や文化や宗教を超えて、映画や記憶で人が繋がれる可能性を、生きている中で久しぶりに感じられる機会だったかもしれません。
2021.06.30(水)
文=須永貴子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=西村哲也(オダギリさん)
ヘアメイク=FUJIU JIMI(池松さん)、砂原由弥(オダギリさん)