信頼している俳優さんだから、脚本を渡しました
――オダギリさんが脚本・演出を担当する連続ドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(9月17日からNHKで放送開始)で、池松さんは主人公を演じます。声をかけたのはオダギリさんですか?
オダギリ そうです。『アジアの天使』の撮影中に、池松くんに脚本を読んでもらいました。自分が書いて撮る作品だから、信頼できる人じゃないと一緒にやりたくないじゃないですか。現場での池松くんの姿を見るにつれ、この人になら任せられると思ったので。
池松 海外で撮影していると、日本にいる時よりも親密になります。特にこの現場は石井さんや他のスタッフも含めて日本人が計6人くらいしかいなかったので。宿でいろんな話をしていたら、オダギリさんが「次、こういうことをやろうと思ってる」と話してくれて。これが、すごい内容なんですよ……!
オダギリ (笑)。
池松 このコロナ禍で、こんなことを考える人はオダギリさんしかいないんじゃないかなという内容でした。ソウルでの撮影からカンヌンという海沿いの町に移動して、ある日ふと「脚本を読んで、よかったら出てほしい」と言われました。読ませてもらったらすごく面白かったので「僕でよければぜひやらせてください」と返答しました。
――お2人はいろいろなもので繋がれているように見えます。
オダギリ そのひとつに俳優としての「志」はあるでしょうね。俳優にも色々タイプがあって、本当にピンきりなんですよ(苦笑)。女にモテたいとか、有名になりたいとか、そういう『志』の俳優とはやっぱり合わない。俳優としての哲学や美学を分かち合えるかというのは、意外と大切なポイントなんでしょうね。
池松くんとはそんな話をしたわけではないけど、さっきの韓国映画についての分析からも、映画のことを真剣に考えていることがわかるので、その辺りの価値観の近さを感じていますし、これからの日本映画を引っ張っていってほしいという気持ちでいます。
池松 日本映画の縦軸みたいなものを考えた時に、オダギリさんは日本映画というものの、滅びゆく美意識や失われゆく思想を、独りでものすごく背負っている様に見えていました。この国の映画史において、最後の映画史と言い切れるような俳優さんだと思っています。
人間というのは、会ったことがあろうがなかろうが、記憶や思想で繋がり、知らぬ間に影響を及ぼし合うものだと思っています。僕は直接お会いする前から、オダギリさんの活動はすごく信頼していましたし、尊敬していました。オダギリさんがいなければ、僕のような考えで俳優をやる人間は出てこなかったと思います。
こういう言い方は失礼かもしれないですが、ものすごく広く分類すると同じカテゴリーの末端にいるような感覚はなんとなくあります。自分が向き合ってきた俳優さんのなかでもっとも優れた、この国が誇る俳優さんの一人だと思っていますし、そのことの幸運を、もっと世の中が理解するべきだと思っています。
オダギリ 怖い怖い。聞いてらんない……!(笑)
池松 ごめんなさい(笑)。
池松壮亮(いけまつ・そうすけ)
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年に『ラストサムライ』で映画デビュー。映画『紙の月』、『ぼくたちの家族』のほか石井裕也監督の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などの話題作に多数出演。2020年には映画『宮本から君へ』で第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞など受賞多数。2021年7月1日(木)に中国公開の映画『1921』にも出演。
オダギリジョー
1976年2月16日生まれ、岡山県出身。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、2003年に黒沢清監督の『アカルイミライ』で映画初主演を務める。映画『メゾン・ド・ヒミコ』『ゆれる』など、芸術性の高い作品を選び、独自のスタイルを確立。海外作品にも積極的に出演している。2021年は石井裕也監督の映画『茜色に焼かれる』ほか、9月17日スタートのNHK連続ドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」では脚本、演出を手がける。
映画『アジアの天使』
青木剛(池松壮亮)は8歳のひとり息子の学(佐藤 凌)を連れて、兄・透(オダギリジョー)が住むソウルを訪れる。透から誘われていた仕事は最初からなかったと分かり、途方に暮れていたところに元アイドルのソル(チェ・ヒソ)と出会う。彼女は兄と妹を養うために、芸能事務所の社長の愛人となり細々と芸能活動を続け、剛と同じように人生の希望を失いかけていた。運命的な偶然が重なり、ソル家族と剛親子と透は車での旅を共にする。同じ時間を過ごすことで、日韓の歴史的なわだかまりや心の壁に少しずつ変化が訪れ始めた。そして、旅の最後に目にする不思議な“天使”が意味するものとは……。
脚本・監督:石井裕也
出演:池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー
2021年7月2日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
配給・宣伝:クロックワークス
https://asia-tenshi.jp/
2021.06.30(水)
文=須永貴子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=西村哲也(オダギリさん)
ヘアメイク=FUJIU JIMI(池松さん)、砂原由弥(オダギリさん)