恋愛よりも大切に描かれる、北川作品の友情物語

 本作は「それぞれの恋愛模様を描くラブストーリー」と表面上なっているものの、注目すべきは母娘の、友情めいた関係性ではないでしょうか。

 「恋愛の神様」とも称される北川悦吏子ですが、その主軸のラブストーリーパートの影でしっかりと描かれる、ヒロインたちの友情物語もまた秀逸なんです!

 遡ると北川脚本最初の月9「素顔のままで」(92年・フジテレビ系)は、性格も境遇も違いすぎる優美子(安田成美)とカンナ(中森明菜)という女性2人の物語でした。内気な性格の図書館司書の優美子と、ヤンキー風情でありながらミュージカル女優を目指すカンナ。衝突や誤解などを繰り返し、友情か恋かと迷いながらも、互いに最も大切な人間になっていくことを描いた作品です。

 記憶に新しいところでいうと、朝ドラ「半分、青い。」の鈴愛(永野芽郁)とユーコ(清野菜名)、ボクテ(志尊淳)との関係性。3人は同じ漫画家を目指すライバルであり、社会に出てからできた友だちでした。一緒に苦労し、一緒に戦い、お互いに本音で話す3人は、恥ずかしがることなく「好きだ」という気持ちをしっかり言葉にして相手に贈ります。

 ライフステージの変化で友情というものは消滅しがちなものだけど、結婚しても子どもが生まれても3人の関係は続いていきます。「僕たちの永遠の友情を誓う」というボクテのセリフや、シーナ&ロケッツの「You May Dream」をみんなで歌うシーンにはぐっとくるものがありました。

 「ロングバケーション」(96年・フジテレビ系)の南(山口智子)とモモちゃん(稲森いずみ)も、同じモデル事務所の先輩後輩という間柄でありながらもしっかり友情を育んでいる最高のコンビ。年齢も性格も価値観も違う2人は一見全く噛み合わなさそうなのに、なぜかプライベートでもよく一緒にいます。

 南が瀬名(木村拓哉)に「そんな無神経だから男に捨てられるんだよ」と言われてしまった夜、「私ってガサツ? 無神経?」とモモちゃんに尋ねると、「そんなことないです。私、あんまり上手く言えないけど……先輩のこと好きですよ」と優しい言葉を南に返していたシーンは特に印象的でした。

 ほかにも「Over Time」(99年・フジテレビ系)のヒロイン・夏樹(江角マキコ)と、親友の春子(西田尚美)と冬美(石田ゆり子)の友情も観ていて楽しいものでした。

恋という言葉に収まらないラブストーリーもある

 ひょんなことから一緒に暮らすことになった、大学生の入江(筒井道隆)、親戚の娘・朝美(瀬戸朝香)、入江の後輩・杉矢(いしだ壱成)の3人が織り成すラブストーリー「君といた夏」(94年・フジテレビ系)も取り上げてみます。

 こちらの作品も恋愛ドラマという枠組みを踏襲してはいるものの、3人の間には「恋愛」という言葉では説明がつかない関係性がしっかり出来上がっているように見えるのです。印象的なのは3人で海を訪れた際に朝美が言う「ねぇ、恋より楽しくない? 私たち、恋より楽しくない?」というセリフ。

 最終回のサブタイトルは「恋よりも大切なもの」となっていましたが、実はこれが北川脚本の真骨頂のような気がしています。恋愛至上主義の90年代のドラマにおいてしっかり「恋」でなくてもいい、心の近くにいる大切な存在を描いているんですから。恋愛の神様とマスコミから謳われてしまっているけど、本当に描きたいのは、きっと「恋」という言葉だけに収まらない、個別の友愛関係なのではないでしょうか。

 実際「ロングバケーション」「Over Time」も、同性だけでなく、異性間の友情が物語のひとつのテーマになっています。

 「ラブストーリー」はドラマの王道ジャンルとして目立った存在です。でもその「ラブ」はなにも男女の恋愛に限ったものではりません。人と人が築く、親しくも名もない関係性のひとつひとつが「ラブ」であることを私達は忘れてはいけない気がします。

 恋は終わるかもしれないが、母娘というつながりは一生続いていくもの。「ウチカレ」では、2人の恋愛模様よりもむしろ母娘の友愛関係をどう見せてくれるのかに期待したいです。

2021.01.28(木)
文=綿貫大介