歌舞伎座の舞台に洋服姿の役者が揃う

──そして、もちろん歌舞伎の方々からも学ぶことがあったでしょうしね。

 それは本当にそうです。たとえば、歌舞伎の義太夫が入っている場面も何か所かあるんですけど、そこは父や(市川)猿之助のお兄さんが、稽古中にその場で義太夫さんと話をして作り上げていったので。そういう瞬間を間近で見ることができるのはすごく幸せなことだなと思いながらやっていました。

 だから、現代劇に近いとはいえ、義太夫など、やっぱり歌舞伎の要素もたくさん入っている作品だと思うんです。

 ロシアの場面では洋服を着ている人が出てきて、最初は自分も、歌舞伎座の舞台に洋服というのは違和感があったんですけど、すごく華やかで逆に歌舞伎らしいなと思いましたし。

 シネマ歌舞伎をご覧いただくときも、ぜひ歌舞伎の要素を見つけながら楽しんでいただければと思います。

──いろいろと刺激を受けられましたね。

 そうですね。やはり現代劇に近いものを経験したということは大きくて、歌舞伎俳優としての初舞台は4歳で踏みましたが、ひとりの役者としてのスタートはこの作品になるのかもしれないなと思っています。

» 後篇に続く

市川染五郎(いちかわ そめごろう)

2005年3月27日生まれ。十代目松本幸四郎の長男。祖父は二代目松本白鸚。2007年6月、歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見得。2009 年6月、歌舞伎座『門出祝寿連獅子』の童後に孫獅子の精で四代目松本金太郎を名のり初舞台。2018年1・2月歌舞伎座で八代目市川染五郎を襲名。

『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』

鎖国によって外国との交流が厳しく制限される江戸時代後期。大黒屋光太夫らを乗せた商船神昌丸は伊勢から江戸へ向かう途中で激しい嵐に見舞われ、大海原を漂流することに。海をさまよう神昌丸には17人の乗組員たち。彼らが漂流を始めて8か月、神昌丸がようやく発見した陸地はなんとロシア領。厳しい暮らしの中で次々と仲間を失いながらも、光太夫たちは力を合わせ、日本への帰国の許しを得るため、ロシアの大地を奥へ奥へと進んで行く。
https://youtu.be/792ZmKe4KHg
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/44/

※衣装クレジット
シャツ 33,000円(コスチューム ナショナル/コスチューム ナショナル 青山店)、ジャケット 75,000円、パンツ 38,000円(ともにガラアーベント/ガラアーベント トウキョウ)、その他/スタイリスト私物
コスチューム ナショナル 青山店(03-4335-7772/港区南青山5-4-30 CNAC1F)
ガラアーベント トウキョウ(03-6455-2065/渋谷区恵比寿西2-10-3 プラネックスアンベール2F・3F)

2020.10.03(土)
文=大内弓子
撮影=佐藤 亘
スタイリング=中西ナオ
ヘアメイク=AKANE