キョンキョンの表現力に ゾワゾワする5曲

●「迷宮のアンドローラ」

 何度聴いても、心がでんぐりでんぐりひっくり返されてザワザワする! ものすごい孤独感と温もり、両方を感じる不思議な1曲。

 ひとりUFOに乗せられ、ポーンと宇宙空間に飛ばされアワアワしているとき、大好きな人の声が無線で聞こえてきたらこんな感じなのかも。

 コロナ禍で、SFの世界に飛ばされたような錯覚から抜けられない今の心境にマッチ。

●「夜明けのMEW」

 このトロリとした切なさよ……。若い頃は「MEW」の意味を、主人公がミヨかミヨコで、そのあだ名なのかな、と思っていたが、いやいやいや。泣き声、甘え声、いろんなパターンがこの「MEW(ミュー)」という響きから想像でき、秋元康恐るべしと唸ってしまう。

 関係ないが、この「夜明けのMEW」と薬師丸ひろ子の「探偵物語」は、カラオケで歌うと本当に難しい。私は毎回お経のようになってしまう。なぜ!!

●「木枯らしに抱かれて」

 後年に残すべき名曲。

 ところで、私はこの曲が主題歌だった映画『ボクの女に手を出すな』を若かりし頃に観た。アイドル恋愛映画だと思っていたら、本格的なハードボイルドで仰天。

 人がドカドカ死んでいき、石橋凌が血を噴き出して倒れ、キョンキョンが膝から崩れ落ちるラストに「そそそ想像と違う!」と顎が外れそうになったのを覚えている。

●「優しい雨」

 キョンキョン作詞の中で1番好きな曲である。小泉今日子は太陽のような明るさを感じるが、実は雨や月がとてもよく似合う。「水」の人なのだとつくづく思う1曲。

●「やつらの足音のバラード」

 アニメソングのEDに名曲が多いのは昭和からのセオリー。1974年放送開始の「はじめ人間ギャートルズ」のED「やつらの足音のバラード」もそのひとつ。

 スガシカオや平井堅などもカバーしているが、アレンジ、そして声、癒やしパワーという意味ではキョンキョンのカバーが極上。目をつぶり聴いていると、まぶたの裏に星空が広がる!

 さて、キョンキョンのシングルの中でも名曲といわれる「あなたに会えてよかった」。私はこの曲が苦手である。別れた人に対して「あなたに会えてよかった」と言えるほど己の心に余裕がないからだ。

 思い出は星になるどころか心のシミとしてこびりつき、いまだ深夜に思い出しては腹を立て、枕カバーを噛んでいる。

 そんな状態なので「あなたに会えてよかった」を聴くと「それ本気で言うてる?」と、作詞を手掛けたキョンキョンに食って掛かりたくなり、そんな器の小さい自分が嫌になる。

 しかし、ひとりカラオケで歌ってしまう!

 油断をすると、心にゲリラ雷雨を降らせる危険もあるキョンキョンの湿気。

 でも、聴いたあとは心の渇きがおさまっている。やさしい潤いがぼっちハートを包んでいるのだ。

 ああ、キョンキョンって、ホントに複雑な存在である。

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2020.09.17(木)
文=田中 稲