繊細小説 #02『破局』
公務員を目指し、ラグビー部のコーチをする陽介。健康な若い男性然としたスケベ心も持ち合わせる彼の一人称で語られる、世界が崩れる瞬間。
陽介と親しい膝は、対照的なキャラクター。膝の「我が道を行く」感じが妙にすがすがしい。芥川賞受賞作。
マナーやルールに反することを 繊細に避ける青年の行き着く先
一方、『破局』の語り手でもある〈私〉こと陽介の繊細さ、もろさは、強い自意識から来ている。
社会通念やマナーに準じて自分を律していて、恋人の麻衣子や灯に見せる優しさも、思いやりからというより、自分なりの「こうあるべき」ルールから逸脱することを極端に嫌うせいだ。
確かに陽介は細やかに他者の気持ちを慮りはするが、そこで察したことの真偽を確かめたりはしない。「こうだろう」という思い込みのまま、突き進んでしまった結末はあまりに重い。
生きづらそうな主人公たちへの共感も同情もあるが、人づきあいの中では、繊細過ぎるくらいで正解だ。
Column
今月の「〇〇」小説
刊行されたばかりの話題の小説を、ひとつのくくりをつけてご紹介します。
2020.08.24(月)
文=三浦天紗子