気がついてしまうがゆえの 苦悩と生きづらさ

 現代人は打たれ弱くなったというが、繊細さは罪じゃない。敏感すぎるゆえに、人の言葉や心情に振り回されやすいことは、思慮深さの証なのだから。


繊細小説 #01『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

 〈男だから、それだけで(略)加害者側にいることが、すごく嫌で……〉と己の性にさえ罪悪感を抱く七森の変化を見つめる表題作、婚約者の優しさとマリッジブルーに揺れるヒロインの思いを描く「たのしいことに水と気づく」など、4篇を収録。

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

大前粟生 河出書房新社 1,600円

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こんな優しさが埋め込まれた社会が いつか来ますように

 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の表題作は、そんな繊細さが服を着て歩いているような七森が主人公。

 ぬいぐるみサークルに入っている七森は、入学してからの〈ズッ友〉のような関係の麦戸ちゃんが学校に来ていないことが気になっている。だが、即座にその気持ちを恋だとかざっくりまとめてわかったふりはしたくなくて、わからないままに心に留め置く。

 やがて、初めての彼女である白城とのデートや地元の成人式での出来事、実家の両親の言動を観察することで、違和感の正体に気づいていく。

 男性優位社会の中で、男らしさ女らしさの答え合わせをするかのようにふるまってきたこと、いまなおふるまうよう求められていることに、自分は傷つき、おびえているのだと。

 〈こわいんだ、僕はただ、他のひとたちにも、自分の言動でひとが傷ついてるかもしれないって気づいてほしい〉

〈僕が、他のひとの分まで、加害者性とか、生きづらさとか、吸い込めたらいいのに〉

 七森の胸の内がつまびらかにされるたびに、胃がきゅっとなる。

2020.08.24(月)
文=三浦天紗子

CREA 2020年9・10月合併号
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この記事の掲載号

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