デジタルではない紙の写真は 物質でありメッセージボード
一枚の写真を形容する特別な言葉がある。一葉。手のひらサイズの平らで薄いそれは、目を凝らして見るほどに生命の息吹が脈打っており、けれど時間が経つうちに色褪せて最後は朽ちる。一枚の写真は、一枚の葉と似ている。そこには、紙に印刷された写真だからこそ生まれる情緒がある。想像力がある。
一葉小説 #01『海神の島』
銀座の高級クラブのママになった汀、水中考古学者の泉、地下アイドルの澪。同時期に5億円(!)が必要になった花城家の三姉妹は、オバァの莫大な遺産を巡る宝探しに乗り出していく。ヒントは一葉の写真。「秘宝」が眠る海神島は、どこにある?
沖縄の歴史と今を綴る熱量満点の大河長篇
自身のルーツである沖縄が舞台の小説を書き継いできた池上永一の『海神の島』は、花城家のヤンチャな三姉妹が、オバァの莫大な遺産を巡り宝探しを繰り広げる。
相続人になる条件は、曾祖父が発見したとされる「海神の秘宝」を探し出すこと。ヒントは、祖母が持つ一葉の写真だ。ありふれた海岸線を背景に若き日の曾祖父が写されたその写真には、メモが記されていた。「海神島にて」。
そんな名前の島は沖縄にない。では、どこにある? 調査を進め三者三様の推理を働かせるうちに、同じ写真が、以前とは全く異なるものとして見えてくるプロセスが面白い。
2020.11.03(火)
文=吉田大助