『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』ふせでぃ インタビュー

 「CREA WEB」での連載中の『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』。その第1話を、作者のふせでぃ氏がツイッターに「愛されたいけど誰も愛してくれないからとりあえずセフレに依存してるOLの話」としてアップしたところ、たったひと晩で2.7万いいねを獲得。

 ツイッターに「わかりみが深い」「めちゃくちゃ私で死にそう」など、共感のコメントがあふれた。

 「CREA WEB」での連載が、このたび最終回を迎えた作者のふせでぃ氏に、作品を生み出しながら、考えたことを聞く。


明日、世界が終わるかもなので、毎日を大事にしたい

――タイトルはどんなふうに決めるんですか?

ふせでぃ 『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』は、台風の日に生まれたフレーズなんですよ。

 去年の10月に個展をやってたんですが、大型の台風が来ちゃって、帰らないとやばい、という話で個展を早じまいすることになって。

 その日、この本の担当さんが会場にたどり着いた時、1番大きなイラストに書いてあった言葉がもともとも言葉なんですよ。

2019年に行われた個展の様子。1番下に「明日世界が終わる可能性があるので本日は帰りません。」というコメントのついたイラストがある。
2019年に行われた個展の様子。1番下に「明日世界が終わる可能性があるので本日は帰りません。」というコメントのついたイラストがある。

ふせでぃ あの時は……「こんな状況だし、今日はもう遊んじゃおう」というテンションで書いたんですよ。でも、最終的にこれをタイトルにする決め手になったのはコロナです。

――状況的にぴったりな言葉ですね。

ふせでぃ コロナで街に出られなくなってしまって……、いつこの状況が収束するかわからなくて後悔したんです。もっと遊んでおけばよかったって。好きなバンドのライブに行っておけばよかった。友だちと「ごはん行こうね」とか約束してたのも、それっきりになってしまうかもしれない。

 こういうことって本当にあるんだと実感しました。『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』は今の気持ちにも、ストーリーにも合っているし。

――この作品では「タイミングを自分で選択する」ことが大きなテーマですしね。

ふせでぃ 「帰りません」という宣言は自分の意思。自分の意思で積極的に今日という日を選んでいこうよと。

主人公に「好きなら自分からもっと積極的に示せ」と説教したかった

――特に力を入れて描いたシーンは?

ふせでぃ アキちゃんが夏樹くんに告白する場面です。夏樹くんもアキちゃんのこと好きだったのに……。「彼は私のことなんて特別に好きじゃない」と決めつけていて、じつは自分のほうから突き放してたことにアキちゃんが気づけてよかったなと。

――失恋はしたけれど、そのことに「気づくことができた」シーンととらえているわけですね。

ふせでぃ 好きなら自分からもっと積極的に示せばよかったと学ぶ。それって大事なことだと思うんです。

――うーん。夏樹くんと心が通い合って、ここでうまくいくかと思ったんですけどねぇ。

ふせでぃ 世の中、なんでもちょっとしたタイミングで運命が分かれることが多いなと日頃から思っていて。「あれが1日早かったら違う結果になっていたはず」みたいなことってありますよね。私も後悔がいっぱいあるんで(笑)。

――でも、その「失敗」が、別の良い出会いのきっかけにもなりえるわけで。読み手にもそういう希望を感じさせると思います。

ふせでぃ ラストをどうするかはずいぶん悩んだんですよ。でも、この作品では救いを描きたかった。ここから主人公を救うにはどうしたらいいかなっていろいろ考えて……仕事で出世してみるとか、新しい道を見つけるとか。

 でも、恋愛の葛藤の救いがないまま、男性不信のまま終わるのは嫌だなと思ったんです。

――キズついたアキちゃんが努力する姿が健気で泣けます! 悲しみを自力で乗り越えていく強さを感じました。

ふせでぃ 「苦しいだろうけど克服してくれ」という一心でしたね。

 

――いろいろなことが起こって、さまざまな感情と成長が描かれていて。全1巻にして読みごたえのあるドラマでした。

ふせでぃ 「つらい目にあってもヒロインは前に進んでいく」「最後には救われる」というゴールは決めてあったので。

――そんなラストを経て、コロナもあったりで、新しく描いてみたいことが生まれたりしたのでは?

ふせでぃ はい。じつはもう描き始めてます。どこに発表するとか、そういう予定は決まってないんですけど。おそらく「ふせでぃさん感」はゼロです。これまでの作品でやらなかったことをやってみています。

――ちょっとだけキーワードを教えてもらえませんか?

ふせでぃ S Fですね。この現実を見て、描くしかないという話。

――漫画家になるつもりはなかったそうですが、資質としてはめちゃくちゃ作家向きですよね。自分の中からわきあがるテーマがあって、それを形作っていけるのは生粋の作家。なるべくして漫画家になったと思います。

ふせでぃ 作ることが好きなんですよね。武蔵美大に入った時は当初、家電のデザインをやりたかったんです。ソニーとかパナソニックに入りたくて。

 でも、入学して立体構成をやってみたら早々に「ちょっと違うな」と思ってしまった。結局、在学中はテキスタイルデザインを専門にして、せっせと布を染めていたんですが。

――それを仕事にしようとは思わなかったんですね。

ふせでぃ やっぱり素材と向き合えなかったんです。工芸工業デザインでは木とか土、ガラスとか扱う素材の選択肢がいろいろあって。その中で1番平面に近い布を選んだんですが、やっぱり違った。

 素材の魅力を引き出すというのが、自分に合わなかった。自分の手で線を引くのが好きなだけなのかなと思って、イラストレーターを目指すことにしたんです。

2020.09.22(火)
取材・文=粟生こずえ
撮影=鈴木七絵