『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』ふせでぃ インタビュー

 「派遣社員、彼氏なし、忘れられない元カレ&セフレあり」の女子を描いたマンガが、「わかりみが深い」「めちゃくちゃ私で死にそう」など、 SNSを中心に若い女子たちの共感を集めている。

 そんな「CREA WEB」で連載中の『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』が、このたび最終回を迎えた。

 インスタグラムのフォロワーも14万人を超え、SNSでも話題の漫画家・ふせでぃ氏に、この「わかりみ」のワケを聞く。


「会ってごはんはいいけど、年収低いんだよねー」とかって言葉は、ちょっとやだ

――『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』のアキちゃんは28歳のOL。どうしてこういう年齢設定になったんですか。

ふせでぃ 自分と歳が近いほうが描きやすいんです。

 それと、同世代の恋愛に悩んでいる女の子たちから聞いた話や私自身の話がヒントになっているところもあって。この年齢を選びました。

 読んでくれる皆さんも同じようなことで悩んでるんじゃないかなーって。

――恋愛の悩みって、年齢によって変わってきますものね。

ふせでぃ ネットとかでアラサー女子の話とか見ると、恋人を選ぶのにスペックで判断する人がいて。

 「会ってごはん食べたりするにはいいけど、年収低いんだよね」とか言う人いるじゃないですか。そういうのやだなって思っていて。そういうことで恋人選ぶのってなんか違うよなと。

――それに対するアンサーのような気持ちで本作を描いたのでしょうか。

ふせでぃ そういうところはあります。「幸せはもっと身近にあるはずだよ」って。この作品ではそれを言いたかったんです。

――幸せにはいろんな形があると。その一例としてこのストーリーを描いた?

ふせでぃ そうですね。書籍のあとがきにも書いたんですけど、たまたまこのお話は恋愛マンガになってますけど、本当は「幸せ=恋愛」とかってわけではなくて、精神的な意味で、自分の幸せってどこにあるのかを探すうえでの考え方の助けになるようなお話にしたかったんです。

――アキちゃんは彼氏なし。セフレの夏樹くんという存在はいるけど、恋人ではない。「彼氏ってどうやってつくればいいんだっけ…」というモノローグはアラサーならではの感じです。

ふせでぃ 20歳くらいの頃は経験がないぶん、なんでも新鮮に感じて先入観を持たずに受け入れて、順応できる。失恋しても切り替えるパワーがある。

 でも、20代も後半になると疲れてきちゃうっていうか。前ほど簡単に動けなくなるんですよね。新しいことにも挑戦しづらいし、環境を変えるのが面倒になる。そういう葛藤を描きたいなと思いました。

――なんともせつないのが、アキちゃんの学生時代の元カレ・冬也くんとの回想シーンです。

ふせでぃ あ、「トラウマに勝つ」というのもこの作品のテーマなんです! 自分がけっこうしつこい性格というか……恋愛に限らず友人関係や仕事とかでうまくいかなかったことを何度も思い出してしまうタイプなので。

 「あの時、どうしてあんなことしちゃったんだろう」とか「なんではっきり言えなかったんだろう」とか。

――幸せだった頃の冬也との日々。この回想シーンはついアキちゃんに思い入れてしまいます。

ふせでぃ 冬也くんとピザを取って食べるシーンは気に入ってます。お金がない学生時代、好きな人と小さな贅沢をする。そういう思い出って美しいんですよね。

――その2人の幸せいっぱいな描写があって。でも、カメラマンを目指す彼に浮気が発覚して……。ほんとクズですね!

ふせでぃ 冬也くんってクズだけど私はこの作品に登場する3人のうちで一番好きなんですよね(笑)。かっこいい。めちゃくちゃ正直だし。このマンガを男性が読んだらどんな感想を持つのか、知りたいですね。

――男性にもぜひ読んでほしいです。かわいい絵から「甘々な話なんだろ」とか思いこんでたら大間違いだから(笑)! 勉強になると思うんですよ。

ふせでぃ 私もそう思います(笑)。

――女の子は、相手の負担にならないようにとかいろいろ気をつかってるんで、その上にあぐらかくんじゃないよ、と! ちなみに冬也くんは「思い出」の中でしか登場していないですね。

ふせでぃ アキちゃんと成長した冬也くん再会させようかなと考えたりもしたんですけど。「いや、こんなクズとはもう会っちゃダメだ!」という親心でやめましたけど。アキちゃんは恋愛によってキズつくけど、いろんな経験を踏まえて前に進める子になってほしかった。アキちゃんの成長を描く物語だと思っています。

2020.09.15(火)
取材・文=粟生こずえ
撮影=鈴木七絵