初めての感情を味わえる、衝撃を受けた作品たちです
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澤部 渡さんが選ぶマンガは、澤部さんのバンド「スカート」の楽曲同様、センチメンタルでありながら、どこかドライな印象も受ける、一言で表せない複雑な味わいの作品が多い。
「僕はどちらかと言えば、明確なゴール設定のないマンガが好きなんです。
気持ちがガッと揺れるのも嫌いではないですが、それよりも、日常の中でセンチメンタルになる瞬間を切り取ったものや、かすかな気持ちの揺れを見たいと思うほうなので。
理由を言語化できない出所不明のセンチメンタル、夏の午後を思わせる白くて静かなシーン、陰影が美しいコマ。絵にも物語にも、余白を感じさせるようなマンガに無性に惹かれます」(澤部さん)
好みの作品を探し当てるコツを聞いてみると、「書店でマンガを選ぶときは、小口(本を開く側の部分)が白いかどうかを確認することが多いです」とのこと。
「余白の多いマンガは考える必要があるから能動的に読めるし、だからこそ、その世界観に没頭できる。読んでいる僕が僕でなくなっていくほど面白さを感じます。
音楽も、『なるべく自分を無くしてしまいたい』と思いながらやっているところがありますが、マンガに求めるのも同じ。誰かとの共感よりも、トリップ感を得られるかどうかが大切なんです。
これまで触れたことのない感情を体験することができたときの衝撃は、もう、言葉にできないんですよ」
さらりと出てくる、ものすごい構図と表現
「甘木唯子のツノと愛」久野遥子
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第17回文化庁メディア芸術祭「アニメーション部門」新人賞を受賞した、アニメーション作家としても活躍する漫画家の初作品集。
表題作の主人公は、ツノを持つ少女とツノを持たない兄。ふたりの行き場のない思いが向かう先は……。
「以前、アルバムのカバーイラストをお願いした大好きな作家さん。中でも『へび苺』が本当に衝撃で。とんでもない話です」(澤部さん)
2020.07.10(金)
Text=Arei Matsuyama
Photograph=Masumi Ishida
CREA 2020年6・7月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。