数ある映画やドラマの中で、心底好きといえる作品に出合うことはきっと奇跡に近いこと。
そんな作品と巡り合った選者が、愛する作品の魅力をナビゲート。鑑賞するときに欠かせないおともも要チェックです。
今回の選者は、数多くの恋愛映画を手がけてきた日本の若き巨匠、今泉力哉監督。
キラキラ系の作品は苦手だと語る監督が偏愛するのは、お涙頂戴では終わらず、あの手この手で心をザワつかせる作品です。
◎不器用な主人公もの
人生、思い通りにならない主人公たちは、恋愛においてもひと筋縄ではいかないもの。
ヴィンセント・ギャロが 男の情けなさを徹底的に描く
『バッファロー'66』
●ストーリー
5年の刑期を終えて出所した孤独な男、ビリー。両親に「フィアンセを連れて帰る」と噓をついてしまった彼は、トイレを借りたダンス教室の生徒にフィアンセを演じさせ、両親のもとへ帰るのだが……。
「たまたま出会った女性に強引に彼女を演じさせ、実家の両親に紹介したかと思えば、想っている女性の写真をロッカーに隠し持っていたりする。
この映画の主人公は、格好悪くて繊細で不器用な奴なんです。その情けなさを特殊な現像をした色味の洒落た映像で物悲しく描いていく。
ベッドシーンでの踏み込めなさを見せる俯瞰ショット、ボウリング場でのダンス、証明写真機の中での苛立ち。すべてがとても印象的です」(今泉さん)
『バッファロー'66』
監督 ヴィンセント・ギャロ
出演 ヴィンセント・ギャロ、クリスティーナ・リッチ、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・ギャザラ
1998年
自分を好きになってくれた人は愛せない!?
『アニー・ホール』
●ストーリー
死にとりつかれたコメディアンのアルビーと、ポジティブな性格のアニー。ふたりの恋の始まりから終わりまでをオフビートに綴る。ウディ・アレン監督作の中でも、特に人気の高い作品。
「『僕を入れるようなクラブには入りたくない』という喜劇役者グルーチョ・マルクスの言葉が、冒頭で引用されます。
主人公が女性と幸せな関係を築けない男であるという設定を念頭に置いて解釈するなら、『自分を好きになるような女性とは付き合いたくない』という意味でしょう。
片思いしていた人が自分の存在を認めてくれた瞬間、その人の魅力が半減してしまう僕にとって、この物語には共感しかありません(笑)」(今泉さん)
『アニー・ホール』
監督 ウディ・アレン
出演 ウディ・アレン
1977年
Blu-ray 1,905円
発売元 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
感情を剝き出しにして ぶつかり合う男女の魅力
『ミニー&モスコウィッツ』
●ストーリー
美術館勤めのミニーと、駐車場で働くモスコウィッツ。ひょんなことから知り合ったふたりは、激しくぶつかり合いながらも、だんだんと惹かれ合っていき、結婚を決意する。NYインデペンデント映画の父、ジョン・カサヴェテス監督の友人がモデルの物語。
「愛の不確かさについて悩み、考えている女が、偶然出くわした一見何もかもが正反対の男と結婚するまでの物語。
この世で一番好きな映画かもしれません。登場人物たちが皆、基本的にまあ荒っぽい(笑)。女性を殴る描写もあります。
カサヴェテス作品は感情を剝き出しにしてぶつかり合うシーンが多いのですが、それは言葉足らずの不器用な人間を描くのと同時に、強い愛の証でもあるのです」(今泉さん)
『ミニー&モスコウィッツ』
監督 ジョン・カサヴェテス
出演 ジーナ・ローランズ、シーモア・カッセル、ヴァル・アベリー、ティモシー・ケリー、キャサリン・カサベヴェス
1971年
2020.06.28(日)
Text=Keisuke Kagiwada
Illustration=Emi Ozaki