◎ご都合主義へのアンチテーゼ

 恋愛映画にはお馴染みの、ご都合主義的な物語の展開。それに毅然と反旗を翻した感動作。

お決まりではないラストに号泣

『ジョゼと虎と魚たち』

●ストーリー

 雀荘でバイトをする大学生の恒夫は、仕事帰りに乳母車に乗った少女ジョゼと遭遇する。みるみる惹かれ合うふたりだったが、その間に立ちはだかる壁はあまりにも大きかった。

「大学生の男と脚の不自由な女性の恋愛を描いているにもかかわらず、男が将来への不安を拭いきれなくて、別れるという展開に衝撃を受けました。

 でも、そのほうがよっぽど彼女をひとりの人として扱っていると僕は思うんです。

 別れた後、男は道端でしくしくと泣くんですが、僕も大学時代にまったく同じ経験をしていたので、いたく感動し、混乱し、号泣しました」(今泉さん)

『ジョゼと虎と魚たち』

監督 犬童一心
出演 妻夫木聡、池脇千鶴
2003年
DVD 2,800円
Blu-ray 3,800円
発売元 アスミック・エース
販売元 TCエンタテインメント

新ジャンル“アンチ余命もの”とは何か?

『コントラクト・キラー』

●ストーリー

水道局で働くアンリは、ある日突然クビを言い渡される。絶望した彼は自殺を試みるもあえなく失敗。殺し屋に殺してもらうことに。そんな折、彼は花売りの女性に恋をするのだった。

「自殺願望のある男が殺し屋を雇った直後、恋に落ちて死ぬのをやめるというコントみたいな設定なんです。死ぬはずの人が死なないという点に惹かれます。

 同じカウリスマキ監督作では『ル・アーブルの靴みがき』も言わば“アンチ余命もの”でしたね。

 僕は安易な余命ものが苦手なので、映画『こっぴどい猫』も意図的に“アンチ余命もの”として作りました」(今泉さん)

『コントラクト・キラー』

監督 アキ・カウリスマキ
出演 ジャン=ピエール・レオー、マージ・クラーク、ケネス・コネリー、アンジェラ・ウォルシュ、セルジュ・レジアニ、ジョー・ストラマー
1990年


◎今泉力哉さんの「映画のおとも」

 普段から飲んでいるザ・プレミアム・モルツ片手に、定番のコイケヤ ポテトチップス(のり塩)を食べながら観るのが今泉監督流。

●選んでくれたのは……
今泉力哉(いまいずみ りきや)さん

映画監督。1981年生まれ。学生時代より自主制作映画を撮り始める。2010年、『たまの映画』で商業映画デビュー。近作に『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』など。最新作『街の上で』『あの頃。』が公開待機中。

心底好きといえる
プロが選ぶ傑作ドラマ&映画

2020.06.28(日)
Text=Keisuke Kagiwada
Illustration=Emi Ozaki

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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