◎猪突猛進な無償の愛
周囲からどう思われようと、自分の信じた道を突き進む姿には圧倒されるしかない。
恋の盲目さは道徳を超える
『トーク・トゥ・ハー』
●ストーリー
看護師のベニグオとジャーナリストのマルコ。ふたりにはそれぞれ愛する人がいるが、いっぽうは交通事故で植物状態、他方は昏睡状態に陥っている。そんな4人をめぐる奇妙な群像劇は、いつしか悲劇を巻き起こす。
「本作には、交通事故で植物状態になった女性を、恋愛感情を抱きながら看病し続ける男が登場します。
見ようによってはかなり気持ち悪い男なんですが、彼を否定することなく淡々と描く。そこが魅力です。
恋愛とは何か。その価値観が揺らぐ感じや、物語が続いていくことを示唆するラストも好きです」(今泉さん)
『トーク・トゥ・ハー』
監督 ペドロ・アルモドバル
出演 ハビエル・カマラ、ダリオ・グランディネッティ、レオノール・ワトリング、ロサリオ・フローレス
2002年
「ちゃんと好き」を見せつける怪物的作品
『妻は告白する』
●ストーリー
登山中に岩壁を転落した女とふたりの男。女がザイルを切ったことで、ひとりの男が亡くなり、残りのふたりは生き残った。実は死んだのは女の夫、生き残ったのは女の愛人だった……。
「愛してはいけない男に想いを寄せる女性の、ある意味で病的な愛憎が描かれています。
忘れられないのは、彼女が雨でびちょびちょになりながら、周囲の目を顧みずに男の仕事場を訪れるシーン。
僕の映画『サッドティー』のコピーは“『ちゃんと好き』って、どういうこと?”なのですが、この映画を観終えて、『ここにあった!』と思いました。『ゆれる』という映画への影響もあるかと」(今泉さん)
『妻は告白する』
監督 増村保造
出演 若尾文子、川口浩
1961年
DVD 2,800円
発売元・販売元 KADOKAWA
寄り添うことしかできない愛情
『シークレット・サンシャイン』
●ストーリー
夫を亡くしたシネは息子とふたり、夫の故郷で再出発を決意。そんな矢先、息子を誘拐された末に殺されてしまった。彼女に好意を寄せるジョンチャンは、絶望する彼女をただただ受け止めるのだった。
「夫を亡くし、息子を殺された女が心の救済を求めて宗教にのめり込む。その教えを信じて犯人を赦そうとしたら、犯人も同じ宗教に入信していて『既に神に許されている』と言われ絶望する。
この設定がもう100点。彼女に恋心を抱き、興味のない宗教にも触れ、ただ寄り添う報われない男を『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホがどこか滑稽に演じている」(今泉さん)
『シークレット・サンシャイン』
監督 イ・チャンドン
出演 チョン・ドソン
2007年
権利元 エスピーオー
※「TSUTAYA」店頭および、映像配信サービス「TSUTAYA TV」で視聴可能
2020.06.28(日)
Text=Keisuke Kagiwada
Illustration=Emi Ozaki