あなたにはありますか? 心を守るための、秘密の隠れ家
あまり歓迎できることではないとはいえ、長い人生の間には、何かに行き詰まり、「ここにいてはダメだ」という気持ちになることがあるかもしれない。
どこかへ逃げたら何かが変わるというほど、世間は甘くないと知ってはいるが、最悪の事態から逃れるため、差し当たって身を潜めることにするのも悪いアイデアではない気がする。
潜伏生活小説 #01『さいはての家』
社会から後ろ指を指されるようなことは何もなくても、閉塞感やストレスもまた人を追い詰める。目の前の問題から逃れたくて身を隠した人々を描く5篇。
世相を反映したリアリティーと、強い存在から不当に搾取されてきたおのれの人生に立ち向かう登場人物の姿がいい。
逃げたい理由は人それぞれ 潜伏がもたらす5つの未来
彩瀬まるの『さいはての家』では、地方都市の郊外の古びた一軒家に、訳ありの人々がたどり着く。
「はねつき」は、駆け落ちした男女の話。「ゆすらうめ」では、鉄砲玉をさせられた下っ端ヤクザと元同級生の男性ふたりが、「ひかり」では、怪しい団体の教祖だった老婦人が、逃げてくる。
彼らは、社会から孤立した暮らしをするうちに、自分でも目を背けていた事実や感情に否応なく気づいてしまう。
そこで生まれるささやかな変化は後味のいいものばかりではないが、なあなあにしていてあとでもっと苦しむよりいい。
そんな必定の通過点のように感じるのだ。
2020.05.25(月)
文=三浦天紗子