一葉小説 #02『アウア・エイジ(our age)』
大学院生の頃のバイト仲間で、若くして亡くなったミスミ。彼女が残した鉄塔の写真を手に、主人公は20年ぶりにその塔の謎を追いかける。〈母親とその娘の、ひどく長い二本立ての映画を見終わったような気分になった〉。第163回芥川賞候補作。
むなしさや淋しさに満ちた 人生をキックする「謎」
岡本学の『アウア・エイジ(our age)』は、大学准教授である男性主人公が、大学院時代に名画座で映写技師のアルバイトをしていた頃に出会った女性・ミスミの謎に20年ぶりに迫る。
唯一の手がかりは、夕暮れ時の鉄塔を、下から見上げただけの味気ない一葉の写真。余白にはかすかに読み取れる文字で「our age」と書いてある。それは母の筆跡だ、とミスミは語っていた。かつて一緒にこの塔を探し回った記憶が蘇り、主人公は一人きりの捜索を始める。若くして亡くなったミスミの人生と、彼女と出会った自分の人生の意味を取り戻すために。最大の謎は――「our age」とは何か?
一葉の写真は、撮影時にレンズの先にあった光景を記録するだけのメディアではない。それは端的に一枚の紙であり、文字を刻み込むメッセージボードにもなり得る。物語は、そこから生まれる。
Column
今月の「〇〇」小説
刊行されたばかりの話題の小説を、ひとつのくくりをつけてご紹介します。
2020.11.03(火)
文=吉田大助