自分の中にある才能も胎動するような、才能開花の名もなきサクセスものを観て何らかひとつやり遂げよう

 なおさら心を前向きにするのに“から騒ぎ”はいらないこと、片付け的な身近な心の切り替えが全てであることがわかった訳だが、では心が前向きになったところで一体何をするのか?

 じつはそこがとても重要で、何らか目的が欲しい。ポジティブになったところで些細な事でも成し遂げられたら自信の地固めができ、人生が一気に進むから。

 資格を取る、お稽古事を始める、何でもいいが、そういう時に役に立つのが、名もなき女が才能を開花させるスペシャリスト系の映画。

 芸術やスポーツでのサクセスストーリーは、やっぱり遠い夢物語になり、実際に元気が出る効果にまでは至らないパターンだが、これが普通の職種となると、事情がはっきり変わってくる。

 みんなやればできる、自分にだってできるのだという、仕事に対するリアルな前向き感が底からじわじわと増していくのだ。

 例えば『タイピスト!』。今時はもうその職業自体が成立しないが、これは1958年のフランスを舞台にした映画。

 他にあまり取り柄はないが、タイプの早押しには目覚ましい力を発揮したOLが早押し大会に出場、勝ち進んでいく洒落た根性モノというべき作品。

 パソコン早打ちなら私も負けない、という人には“気持ちが好転するきっかけ”になるだろう。

 一方、TVショッピングで自作のモップを売りだす普通の主婦の物語『ジョイ』も、今やネットでオリジナル製品を売って成功できる時代だけに自分の中の可能性にも気づいて興奮するかもしれない。

 またここでも黒人差別のある時代、数学に天才的な能力を持つ黒人女性たちがNASAで活躍するまでを描いた『ドリーム』があり、実力さえあれば誰でも認められ、世に打って出られるという今に通じる話。

 ただし、頑張れば報われる、逆境にあってもきっと誰かが見ていてくれる、そういう至極当たり前の希望につながる作品は、あまりに予定調和すぎて安っぽく感じてしまうが、普通の職種の仕事モノは、そういう展開にするしかないのだとも言われる。

 仕事モノで全く救いのない終わり方をすると、これが不治の病モノや殺人鬼モノよりも深い絶望感や厭世観を残し、社会をいたずらに暗くするからタブーなのだとか。

 従って私たちも、ありがちな展開にもちゃんと勇気づけられることになっている。それこそお約束の前向き映画なのだ。

 仕事で結果が出せずクサった時、また仕事で嫌な奴がいた時の処方薬として、ぜひ。

◆『タイピスト!』(2012年)

タイプの早打ちしか取り柄のないヒロインが世界大会に挑み奮闘する。1950年代フランスのカルチャーとファッションにも注目。

Photo: Momentum Pictures/Allstar Picture Library/Zeta Image


◆『ジョイ』(2015年)

冴えない日々を送るシングルマザーのジョイが、触らずに絞れるモップを発明し……。人生を一変させ、大企業を築く感動ドラマ。

ブルーレイ発売中 1,905円
発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
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◆『ドリーム』(2016年)

アメリカ初の有人宇宙飛行計画を陰で支えた、NASAの黒人女性たちの知られざる功績を描く。実話に基づくサクセスストーリー。

ブルーレイ発売中 1,905円
発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

2020.03.22(日)
文=齋藤 薫

CREA 2020年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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なんでもないことでイライラ、頑張っているのに空回り。そんな誰にでもある心のモヤモヤを、日々の美容の積み重ねで解消できればと思い、様々な専門家に取材しています。肌と心と体は密接に繋がっているから、スキンケアのテクスチャーが前向きな気分に変えてくれたり、腸を整えることでポジティブになれたりするものです。