後ろ向きな心を救うのはとても意外だけれどナニーもの。そこにある不思議な法則
じゃあ一体何を観ればいいのか? じつはとても意外だけれど、“ナニーもの”。
ナニーとは、言うまでもなくベビーシッター。6歳頃まで親の代わりに子どもを育てる乳母のこと。子どもの有無を問わず、職業を問わず、立派なナニーを描いた映画は一様に女を元気づけてくれるのだ。でも一体なぜ?
おそらくは、社会的に注目されない報われない立場にあるナニーが、ピュアな心の子どもたちから慕われ、最初はナニーを見下す母親たちが、最後には尊敬するようになるというストーリーの仕組みが、ネガティブな心が自然とポジティブに転換していく心模様と完全に呼応するから。
典型的なのが『私がクマにキレた理由』で、スカーレット・ヨハンソン扮するヒロインは有名大学を出たものの就職に失敗、“社会勉強”と称してナニーになるものの、惨めな苦労の連続。
しかし大きな挫折の中での小さな小さな成功感が、結局は人間の心を上向きにしてくれるのだと教えてくれる。保育はなかなか感動的な仕事なのだ。
一方、子育てと家事で限界に達していた母親が完璧なナニーに身も心も救われる『タリーと私の秘密の時間』は、母親の立場で観ると本当に深く重く、色々と救われるが、その母親役のために18キロ太ったシャーリーズ・セロンのぶくぶくのお腹には、劇的に変われる人間の潜在能力を見せられたようで、がぜん勇気が出るから不思議だ。
そして『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』は、差別とパワハラに苦しむ黒人メイドたちの訴えを世に知らしめようとする白人ライターをエマ・ストーンが演じる作品。
当時のアメリカで最下層の黒人メイドをリスペクトさえできる鷹揚な心と正義感を育ててくれたのは黒人メイド、それを辛気臭くなく説教臭くなく描いた物語は、前向きになんてなれない今の社会でも力強く生きるヒントを授けてくれる。
諦めるところは諦め、抵抗するところは抵抗する、……という具合に。
結局のところポジティブになるって、テンション高くはしゃぎ回ることではなく、社会においてどんなにささやかでも、何らかの役割を果たせたという達成感それ自体に宿るものなのではないか。
だからこそ社会的に恵まれない、でも誇り高い職業、ナニーの達成感に心奪われ、ちょっと勇気づけられ、気がつけば心が上向きになっているのだ。
ちなみに、『タリーと私の秘密の時間』でナニーが一晩で部屋をピカピカにしたことにより全てが好転していく場面で、多くの人がはっとする。心が切り替わる瞬間を見た気がしたから。
そう、前向きになるって要はそういうこと、そこまで単純かつ簡単なことなのだと、気づくからなのだ。
部屋を片付けることは、断捨離の概念を引っ張り出すまでもなく、自分をリセットし、ゼロに戻し、心を仕切り直して暮らしをやり直すこと。そういう瞬間にポジティブさが不意に宿るということ、感覚的に思い出させてくれるのだ。
◆『私がクマにキレた理由』(2007年)
主人公のアニーはひょんなことから高級住宅街に住むセレブ一家のベビーシッターに。上流家庭の実態をリアルに描く。
〈特別編〉DVD発売中 1,419円
発売元:ショウゲート
販売元:20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2014 The Weinstein Company,LLC. All Rights Reserved.
◆『タリーと私の秘密の時間』(2018年)
3人目の子どもが誕生して心も体も限界に達したヒロインが、ベビーシッターとの交流を通して復活する姿を描く人間ドラマ。
DVD発売中 3,900円
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:エイベックス・ピクチャーズ
© 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
◆『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2011)
1960年代の米ミシシッピを舞台に、若い白人女性のスキーターと2人の黒人メイドの友情が旧態依然とした街を変革していく。
Photo:DreamWorks SKG/Allstar Picture Library/Zeta Image
2020.03.22(日)
文=齋藤 薫