相手が前向きすぎると、人間、疲弊する。映画も同じ、前向きすぎる人がヒロインだと、ぐったり弱る
「後ろ向きになりがちな人は、前向きに生きましょう!」幼稚園児でもわかるこの理屈。
しかしこれほど難しく、リアリティのない提案はないかもしれない。なぜなら、ポジティブになること自体が、簡単なようでひどく難しく、時に前向き提案が逆に人を弱らせてしまったりする。
とりわけ映画におけるそれは、逆効果のケースが多々。なぜなら前向きすぎる人が前向き提案をする仕組みだからなのである。
元気が出る映画として真っ先に挙げられるのが、『ブリジット・ジョーンズの日記』に『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』。
どちらも名作。理屈抜きに面白い。でもネガティブな人間が本気でポジティブになろうとする手段として観ると、これらはむしろ逆効果になりかねない。
両作品の主人公は二人ともぽっちゃり系、自分に満足はしていない。でも幸せ願望は人一倍。そこまでなら多くの女性にとって共感性が極めて高い存在。みなその程度のネガ要素は持っている。
でもヒロインたちはそこから脱皮するパワーがとてつもないからこそ、ポジティブになれる物語となる訳で、そういう元気すぎる人の言動を濃厚に見せられると、人間却って落ち込む。
現実の社会でも、ポジティブシンキングの権化みたいな人に、前向きになる方法を散々伝授された挙句に「私が元気を分けてあげる」なんて言われると、逆に魂を吸い取られてぐったりする。ポジティブすぎる人と対峙すると人間は疲弊するのだ。
ましてや二人とも、ぽっちゃりそれ自体が充分にかわいい。今のままで充分に愛されている。幸せになるのが目に見えている。むしろ羨ましいような存在。
いや、面白いことなど何も起こらない日常の中に埋もれそうになっていて、自信を持つきっかけなども見つからぬ人間にとったら、彼らはいっそ妬ましい。
どうしたらああいう風に生きられるんだろうと、溜息つく人がポジティブになどなれっこないのだ。
いや逆に、別のきっかけで気持ちが前向きになれ、事がうまく運びそうになった時に観ると、ちょうどよく共鳴し、さらに元気になれる、それだけは間違いない。心が丈夫になってる時に観るべき映画、なのである。
ただ“ダイエットに失敗した時”だけは異様に元気が出るので、ぜひご利用を。
同様のポジティブすぎるヒロインながら、ぽっちゃり系ではなく全身ピンクの服を着たブロンド女ゆえにインテリたちから馬鹿にされるも、“反骨精神?”でピンクの服を着たまま猛勉強の末に弁護士になる『キューティ・ブロンド』。
これは自分に自信がない、自分を好きでない人が観ると、意味不明。“自分大好きな人”讃歌なので使い方を注意してほしい。
かくして、「元気が出る映画」として有名な映画ほど、じつは取り扱い注意。もちろん娯楽としては最高だが、心が痛んでいる時は慎重を期してほしいのである。
◆『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』(2018年)
容姿にコンプレックスがあり、仕事も恋も積極的になれないぽっちゃり女子の主人公が、自信を得たことで輝きを増していく。
Photo:Voltage Pictures/Allstar Picture Library/Zeta Image
◆『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)
恋と仕事に奮闘する、出版社勤務の32歳独身女性ブリジット・ジョーンズの日常を描いたロマンティック・コメディ。
Photo:Miramax Films/Photofest/Zeta Image
◆『キューティ・ブロンド』(2001年)
恋人に捨てられた大学生エルが、持ち前のポジティブさで困難を乗り越えながら弁護士を目指し、奮闘する青春コメディ。
ブルーレイ発売中 1,905円
発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2018 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
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2020.03.22(日)
文=齋藤 薫