現実逃避のち、強烈な孤独、でも大きな希望に向かって心が温まるハッピースタート。傷心の一人旅ものこそ究極
そして総合的に私たちを前に向かせるジャンルは、というならズバリ“失意の一人旅もの”。
なぜかどの作品も、失恋か離婚で何もかも嫌になり、休暇をとって長旅に出かけるというシチュエーション。「よくある話だね」とさしたる期待もしないで観ても、必ず心が晴れ晴れするのは不思議なほど。
誰でもできる旅によって、現実逃避とともに未来への希望が形になり、幸せになれそうな可能性がバーンと開花して終わる一挙解決パターン。
最初は強烈な孤独感に襲われるものの、徐々に心が温まり、ハッピーエンドではなくハッピースタートなつくりだからなのだ。
正直、一人旅で新しい恋が実るというお約束の展開は、安易すぎてちょっと腹立たしくもあるけれど、例外なく幸せな気持ちになれるのは、それがさほど非現実的でもないから。
私の知人も、離婚して傷ついて一人“船旅”に出たらその船で知り合った人と、とんとん拍子で再婚という展開になった。傷心一人旅は侮れないのだ。
その最高傑作はやはり『食べて、祈って、恋をして』。イタリア→インド→バリと、少しずつ、でも価値観を根本から変えていく長旅はそれだけで体の中が浄化される。生涯に一度は真似てみたい旅である。
『ホリデイ』はクリスマス休暇にホームエクスチェンジをした2人の女性、どちらも男がらみで失意の旅。うまく行き過ぎだろうと思うが、どちらも新しい恋に出会って超ハッピーエンド×2。
後味がとてつもなくよく、観るたびに恋がしたくなる。いっそ魔法にかかってみたい、リアルに失意の折に観るべき一本。
そして本気で気持ちを立て直したいと思っている人は、『トスカーナの休日』を観たい。
夫に裏切られ、家まで奪われ、仕事もスランプ。親友の勧めでトスカーナへ旅に出て、単なる旅のつもりが、一軒の家に魅せられて新たな人生をそこで始めることになる。
そっか、そういう選択肢もあるのだ。誰かと出会うより先に新しい土地で人生を始めてしまってもいいのだと。ともかく全てから解放された気持ちになる。心が自由になる。
それこそがポジティブになるベストな方法であると思い知るはずなのだ。
旅は体ごと別の場所に移動することで、心をリセットし生き方を変える最も簡潔な手段。こうやって映画で様々な場面を精査するにつけ、旅は人間に特別な力を与えることがわかってくる。
そもそもが自分から動き出さなきゃ旅にならない。だから繰り返し旅に出ている人に、悩み深き人はいない。
旅から旅へ落ち着く暇なく動き続けている人に不幸せな人はいない。それは人生の最も単純な法則。
だから前向き旅の絶対のコツは旅先でも積極的に人生を揺り動かすこと。旅の恥はかき捨てだ。
◆『食べて、祈って、恋をして』(2010年)
ジャーナリストとして活躍するヒロインが離婚と失恋を経て、自らを立て直すために自分探しの旅に出た日々を描く人間ドラマ。
スペシャル・エディション ブルーレイ 2,381円
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2010 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
◆『ホリデイ』(2006年)
恋に破れた2人の女性同士が、休暇中にお互いの家を交換する“ホームエクスチェンジ”を試み、人生を開花させていく。
Photo:Columbia Pictures/Universal Pictures/Photofest/Zeta Image, by Zade Rosenthal
◆『トスカーナの休日』(2003)
夫の裏切りですべてを失った主人公が、親友のすすめでイタリアのトスカーナ地方へ旅行に行き、その地で新たな人生を模索する。
Photo:Touchstone/Allstar Picture Library/Zeta Image
2020.03.22(日)
文=齋藤 薫