さすが! リサイクル上手がここに
日本橋川で江戸城の石を再利用
すぐにボートは日本橋の下に差しかかり、宮さんの解説が始まります。「日本橋は川から見たときの美しさを考えて設計されたそうです。首都高も同様。船からしか見えない装飾もありますから、探してみてください」。
続く常磐橋は「1877年に造られた東京で最も古い橋のひとつ。江戸城の石をリサイクルして造られています」。川岸には藩の印が刻まれた外濠の石垣や、荷揚げをしていた河岸の跡など、江戸の名残が点々と。
川の上には首都高速が。昔も今も、このルートは首都の動脈。門井さんが、
「江戸の陸地は平地が少なく、坂が多い。それに比べて運河は坂もなく、物が運びやすかったのでしょう。江戸で一番、広い平地は"運河”だったのかもしれませんね」
ふとボートのまわりに、白いユリカモメの群れが降り立ってきました。冬の渡り鳥たちが浮かぶ水面を過ぎれば、その先の流れは神田川になります。
神田川の秘境「お茶の水渓谷」
JRと地下鉄の電車を見上げる
日本橋川から入ると、覆うものもなく、高い空の下を流れゆく神田川は晴れやかです。
江戸時代、神田川は江戸城の外濠としての役割を担っていました。古地図と現代の地図を重ねて見れば、外濠と神田川はぴたりと一致します。突然、「あれが『お茶の水渓谷』です」と宮さんが指す先に、緑豊かな渓谷が現れました。
聞けばここは、天下普請により築かれた人工の渓谷。大規模な工事も手作業だったそうで、先人たちの苦難がしのばれます。
渓谷エリアには水道橋やお茶の水橋のほか、東京メトロ丸ノ内線が走る「地下鉄の橋」、中央本線が走る「JRの橋」も。赤や黄色の電車がすれ違う瞬間を、渓谷から見上げる醍醐味は、このクルーズならでは。
前方からカヤックに乗ったグループが近づいてきました。声をかけるとカナダからの旅行者! このところ、東京の川でカヌーやSAPを楽しむ外国の方が多いそうです。
さらに先の柳橋では船宿の屋形船や釣り船が溜まり、江戸の気配も濃厚。ボートは浮世絵そのままの景色に引き込まれ、爛熟した花街の喧騒さえ聞こえてきそうです。かなたに両国橋が見えてきました。クライマックスの隅田川へ漕ぎ出します。
2020.01.03(金)
文=上保雅美
撮影=佐藤 亘