常に行列が絶えない
イデミスギノという名店
神戸に住むケーキ大好きライターの私が、東京に行ったら、なんとかして時間を作って訪れるパティスリーが、京橋の「イデミ スギノ」。
「イデミ スギノ」は、言わずと知れたトップパティシエ杉野英実さんのお店。大人気店で、店の前には常に行列が絶えません。
持ち帰りできないケーキが多いから、店内でおすすめの生ケーキを最低でも3個は味わって、焼き菓子や季節のコンフィチュールやコンポートもチェックしたい。どんなに行列ができていても……。
実は「イデミ スギノ」は、1992年から2001年まで、異人館で有名な神戸の北野町にありました。杉野英実さんは1979年~82年に渡欧。その間、フランス・アルザスやスイスのレストランで研鑽を積んだそう。
神戸で店を開いていた当時、杉野英実さんのケーキを食べるために、私は北野町への急な坂道・ハンター坂をどれだけ上ったことでしょう。
ショウケースに並ぶ、宝石のように美しいケーキ。甘い香りが漂う明るい店内。幸せそうにケーキを食べる人達。映画のワンシーンのような神戸らしい光景も大好きでした。
「デザートの会」で食べた
人生で忘れられないお菓子
神戸のお店では「デザートの会」が定期的に開かれており、私も何度か参加しました。まず最初にワインとそれに合うスイーツが出て、その後に焼きたてのお菓子を味わうという趣向。
ある時の「デザートの会」で出されたコースを思い出すままにご紹介しましょう。
1品目はライチーと桃などのフルーツのコンポートと白キクラゲを使った一皿。フルーツはそれぞれ別々にコンポートしてあり香り豊かで、コリコリした白キクラゲの食感も楽しい。
中華街がある神戸らしいデザートと、スパークリングワインとのマッチングがとてもオシャレ。
2品目は、空豆のパウンド。丸く焼かれたケーキをナイフでカットすると湯気が立ち上り、空豆の香りにほっこり。生地の中には丸ごとの空豆が入っていました。
滅多に食べられない、あつあつのお菓子のおいしさを知ってしまった。
どちらも人生で忘れられないお菓子になったのです。
杉野さんのお菓子はオリジナルで、フォルム、デザイン、光沢、どれも完璧な美しさの芸術品。ナイフやフォークを入れるのがためらわれるほど完成度が高い。そして、味わいや香りが感動的。
ムースは口に入れた途端に消え、香りだけを残す。それでいて、素材を大切にしているから何を食べたかがしっかり印象に残る。はかないほど、繊細で上品でエレガント。杉野さんだけの、至福のお菓子なのです。
2019.11.24(日)
文=そおだよおこ
撮影=釜谷洋史