悪役がイキイキしていた
「下町ロケット」
「下町ロケット」で毎度物議の種になるのが「悪役イキイキし過ぎ問題」。
前半の「ゴースト編」では悪だくみをまったく隠そうとしない弁護士の池畑慎之介を中心に、内場勝則、古舘伊知郎がケッケッケと盛り上がり、後半「ヤタガラス編」では福澤ジャストミート朗がモニカ(吉川晃司)に嫌味タラタラ絡みまくり、これまた料亭で悪役が「ケッケッケ」会議。
もはや平成の物語にあらず。時代劇であった。
途中でいきなり闇落ちするギアゴースト伊丹役の尾上菊之助に至っては、TV用演技からいきなり歌舞伎演技にチェンジ・ザ・ワールド。「伊丹さんになんか妙な霊が取り憑いた」と驚き、霊媒師が登場する展開を予想したのは私だけではないはずである。
抑えた演技なのに誰よりも熱かったのが財前部長役のモニカこと吉川晃司である。
若かりし頃「ザ・ベストテン」でロープにターザンの如くぶら下がりながら歌うという演出で、勢いがつき過ぎ、司会の黒柳徹子をあやうく蹴りそうになったヤンチャな姿を思い出し、目頭が熱くなった。落ち着きはしたが、昔も今も人の心を奮い立たせる魅力があるスターだ。
そのほか、ちょいと登場するだけのシーンでも己の主演舞台に変えていた藤間社長役の杉良太郎。
「ヤタガラス編」では大江戸捜査網さながらにグイグイと部下のトラクターやらかし案件を追い込んでいた。テレビに向かって「いよっ、杉様!」と黄色い歓声をあげていたマダムも多数いたことだろう。
そんな濃いにもほどがあるキャストの中で、特に私のハートにジャストミートしたのは帝国重工の的場取締役、神田正輝である。
同じ石原プロモーションの徳重聡がキモキャラを演じ「怪演」と評判になったが、いやいや神田正輝が100倍コワかったわ!
中尾彬を邪険に扱う正輝。ロケットの打ち上げを見て、笑顔から口がへの字にひん曲がっていく正輝。佃社長(阿部寛)を「わかってるのかなぁ?」とねっしょり責める正輝!
嗚呼、どれもナイス陰険。私の歪んだハートはトキメキ無限大でギブミー救心……。
こうも神田正輝のレベルアップを見てしまうと、渡哲也御大の復帰を待ち、舘ひろしも合流させ、ガッツリ石原軍団のドラマを見たくなるというのが中年の心というものである。
12月2日(日)からNHK BSプレミアムにて、石原軍団多数出演のプレミアムドラマ「クロスロード3 群衆の正義」も放送されている。風はまちがいなく熱い男たちの背中を押している!
ならばもしかしてあの伝説のドラマの続編も可能なのかもと心浮き立たせてしまうのも中年の心というもの。
2018.12.13(木)
文・撮影=田中 稲
写真=文藝春秋