布施明の歌は「3分間のドラマ」

「君は薔薇より美しい」(1979年)。三谷幸喜のカラオケの十八番なのだとか。この最高にポジティブな曲のB面は「セラヴィ ―人生なんてそんなものさ―」。この捨て鉢な楽曲名。内容が気になるところだ。

 「君は薔薇より美しい」と「シクラメンのかほり」をかわりばんこで歌唱し、永遠に出場してもよかったのだが、ご本人は同じ曲ばかり歌うことに疑問を抱いたらしい。

 ならばいっそラストの「蛍の光」を彼に託したらどうか。いやいや、番組構成上どう考えても無理だろう。落ち着け私。そんな無茶な提案などせずとも、布施明のヒット曲は数多い。

「積木の部屋」(1974年)。サビの部分の「いたのかぁあぁあぁあぁあ~♪」の伸ばす部分はカラオケで歌うととても気持ちがいいらしく、50代の歌声自慢たちに大人気。

 得意な家事がボタン付けと掃除という不器用にもほどがある元カノに思いを馳せた「積木の部屋」、彼の歌声が雪雲を呼ぶという伝説まである「落葉が雪に」「カルチェラタンの雪」、50代はこれを聞くとマツダ・カペラとアラン・ドロンの映像が自動的に脳内再生されるという「たまらなくテイスティー」、負けちゃいけないと散々励ましておいてラストで「ゴールはまだ遠い」と厳しい現実を突きつけるドSソング「負けちゃいけないよ」、二人きりの旅行に誘っておきながら、恋人が「抱いて下さい」と頼むまで添い寝とキスでじらせ続け6日目にはとうとう泣かせるという鬼畜な男性の行動を描いた「愛の6日間」など、名作揃いである。歌う曲には困らないはずだ!

ロングヘア時代の布施明はかなり遊び人臭が強い。

 もはや彼の歌は「歌」ではなく、一つの壮大な物語。

 ステージの端から端までドラマティックに染めあげる布施明だが、唯一、彼が歌のドラマを二の次にして勝負師の顔になるのが、超絶声量のライバル、松崎しげるとのコラボである。

 某歌番組で互いのヒット曲を一緒に歌唱していたが、声量・伸ばす長さ共に「俺が俺が」状態のフェイク合戦に……。格闘技的な見応えはあったが期待した仕上がりとはまるで違っていた。歌が上手過ぎる二人に協調性を求める方が間違いなのである。

2018.01.28(日)
文=田中 稲
写真=文藝春秋