単純なようで計算が行き届いた皿
次がスープ、「東御・工藤さんのキタアカリのポタージュ サマートリュフのグラスパウダー」が出されたが、シェフの才が秀でた一つのクライマックスでもあった。
キタアカリのスープは、それだけで品がよく、丸い甘みが心和ます味わいだが、そこにコンソメで煮てから凍らして崩し、パウダー状にしたトリュフを添える。トリュフが溶け、ジャガイモの甘みに色香が刺していく感覚がたまらない。
続いての魚料理「野尻湖天然大鰻 依田さんの玉ねぎ、狼桃トマトのガスパチョ」も素晴らしかった。
2キロの天然ウナギを香ばしく焼き上げ、2日間寝かせてなじませ、微かに発行の刺激が出たガスパチョソースを加えた皿である。ソースがウナギと美しく馴染んでいる。添えた玉ねぎのマリネが、またウナギの脂を一旦切る役目を果たしていて心憎い。
肉料理は、「伊那宮田村のツキノワグマのアッシ・パルマンティエ 根曲がり竹、木の芽」である。
フランスの国民食とも言える牛肉とジャガイモのグラタンを、熊肉を使って作るという面白さである。下には赤ワイン風味のリゾットが敷かれ、熊肉の猛々しさと呼応させている。単純なようで計算が行き届いた皿であった。
デセールは、生姜の刺激が絶妙に効いた「新生姜のブランマンジェ 黒糖エピスソース アップルマンゴーのソルベ」そしてお茶菓子には、甘みの中から会え合われる塩味が余韻を作る、「長野県大鹿村の塩とショコラのサブレ」が出された。
ランチはプリフィクスで3,300円から、夜は5,500円から。木々に囲まれたレストランで、地物と食材に敬意を払った料理を食べる喜びが、ここにある。
無彩庵 池田
所在地 長野県北佐久郡軽井沢町長倉1891-50
電話番号 0267-44-3930
http://www.musaian.com/
マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。
Column
マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。
2017.07.13(木)
文・撮影=マッキー牧元